「親が幼い子供を放って放浪なんてしないだろ。仮に居たとしても、少数であって、多くの親がそんな事をする訳ない!」
「いえいえ。ですが、それがこの国の現実なんです。どうでしょう。私と一緒に最高の国を作りませんか? 可愛い幼女を愛で放題ですよ?」
ロリコン魔族が敵意のない事を示すかのように、穏やかな表情で両手を広げる。
きっとコイツの頭の中は、大量の幼女で埋め尽くされているのだろう。
だがな。俺はロリコンでは無い!
子供を作る方の行為には興味があるものの、それを幼女生産工場などと表現する奴と手が組めるかっ!
「お断りだなっ! 幼女は何をしても許され、暖かい目で見守る? 違うっ! 子供には親の愛情が必要なんだっ! 親が愛情をたっぷり注ぐ事によって、ユーリヤのように可愛く素直に育つんだっ!」
『ヘンリーさん。途中までは良かったのに、どうしてそこでユーリヤちゃんにスリスリするんですか?』
(決まっているだろ! あのロリコン魔族に見せつけるためだっ!)
『そ、そうですか……』
アオイが若干引いているのはさて置いて、ロリコン魔族が小さく溜息を吐き、
「では、こちらの提案は受け入れないという事ですね」
「当然だっ!」
「そうですか。それはとても残念です」
突然ロリコン魔族が俺から距離を置くかの様に、高く飛ぶ。
「逃げるのか?」
「……兄たん、大変。街に魔物の大群が入ってきてる」
「この為の時間稼ぎだったのか!? 姑息な真似をっ!」
大通りの両側から、雪崩の様に魔物が流れ込んでくる。
纏めて吹き飛ばしたい所だが、
(アオイ。街を壊さず、魔物だけを倒す魔法で頼む)
『分かりましたっ! 今度こそ任せてくださいっ!』
(参考までに、どんな魔法を使うつもりなんだ?)
『巨大な炎で、一気に燃やし尽くします。こんな魔物群れなんて楽勝ですよ』
(いやそれ、家まで燃えるんじゃないのか?)
『多少の犠牲は仕方ありません! それにらこれだけ大量の魔物が居るんです。どのみち、家の二つや三つ壊れますって』
(最悪家は壊れても良いけど、中に居る人まで燃えるだろっ! 氷だ! 氷の魔法でいこう)
暴走気味のアオイを止めて、氷の魔法を放つ。
「アブソリュート・ゼロ」
俺が手を向けた方向に向かって、ゆっくりと街が白色に変わっていく……って、やっぱり家の壁まで凍ってるじゃないか。
とりあえず炎を止めさせて良かったと考えていると、その様子を見た魔物たちが、わらわらと後ろへ逃げて行く。
……って、逃げるのかよ! どうも魔物の動きが変なんだよな。
(アオイ。遅い攻撃だと、魔物が逃げる。反対方向から来ている魔物には、広範囲に攻撃出来なくても良いから、速い魔法で頼む)
アオイから教えて貰った魔法を使うと、
「ソニック・ブーム」
突風が巻き起こり、魔物たちと、通りに面する家を吹き飛ばして行く。
(だ、か、ら、周りの家に被害を出すなって言っただろっ!)
『言ってませんよっ! 広範囲じゃなくても良いから速い魔法って言いましたよっ!』
(その前に前提条件で言っただろっ!)
とりあえず、突風を放った側の通りは、猪型やオオカミ型といった、重心が低い魔物以外はあらかた吹き飛ばした。
……家も飛んだけど。
一先ずこっち側に残った魔物が突っ込んで来ているので、返り討ちにしようとした所で、
「ダメっ! マリアッ! 戻ってきてっ!」
半壊した家から、幼い子供がフラフラと飛びだしてきた。
その後ろから、母親と思われる女性が駆け寄り、幼女を抱きしめる。
「マズいっ! テレポ……」
瞬間移動が誰かに見られるとか、そんな事を言っている場合では無く、突進してくる魔物たちから母子を助けようとした所で、ピタッと魔物たちが止まった。
そのまま母子を避けるようにして、ゆっくりと慎重に横を通ると、再び俺たちに突撃してくる。
「今のは……なんだ!?」
余りにも不可解な行動だったので、思わずテレポートの魔法を中断して、魔物たちの動きを観察していると、
「にーに! うえっ!」
不意にユーリヤから警告の声が届く。
見上げてみれば、空から――ロリコン魔族から黒い剣の雨が降り、俺たちに……というより、俺たちと母子の間に居た魔物たちへ黒い剣が次々と刺さり、息絶えて塵となる。
……魔法のコントロールを誤ったのか?
一応、俺たちにも剣が降ってきたが、アオイの防御魔法によって防いだ事と、明らかに俺たちよりも魔物に降った剣の方が多い。
一瞬、ロリコン魔族のミスかと思ったのだが、母子や周囲の建物には、アオイの魔法と違って一切被害が出て居ないので、違うと思われる。
そこでふと、ずっと引っ掛かっていた、ある嫌な可能性について、ユーリヤに尋ねてみると、
「ユーリヤ。さっき居た魔物って変だと思わないか? 死んだ途端に死体が残らず塵になってしまうんだが」
「にーに。あれ、まものじゃない。にんげんだよ……もともとは」
あの魔物たちが、元々は人間だという答えが返ってきた。
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