「ちょっと待ってくれ。俺たちは、火山を利用してドワーフたちが鍛冶を行っている事を知らなかったんだ」
「だから何だというのだ! 我々の鍛冶を邪魔しておいて、知らなかったから悪くないとでも言うつもりか!?」
「そうじゃない。鍛冶の仕事を邪魔してしまったのは悪いと思っている。火の精霊力は何とか戻してみせるから、一旦落ち着いてくれないか」
ヴィクトリーヌが馬鹿正直に火の精霊力を弱めた事を話してしまったので、ドワーフたちが今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。
一先ずそれを止める為、ヴィクトリーヌを庇うようにしてドワーフたちの前に出たのだが、奥からわらわらとドワーフたちが集まり続けている。
「あの人間の兄ちゃんと、狼の姉ちゃんが溶岩を弱めたっていうのか!?」
「だが、どうやって!? ここはヴァロン王国でも有名な大型の火山だぞ? 精霊魔法を使うエルフならばまだしも、人間と獣人にそんな事が出来るのか!?」
「おい、あの後ろに居る連中も、こいつらの仲間なのか!? とりあえず、全員牢に放り込むべきだろう」
後から来たドワーフたちは、俺の話が伝わっていないのだろう。
火の精霊力を戻すと言っているのに、俺たちを拘束しろと言っている。
(アオイ。さっきのサラマンダーたちを元の状態に戻せるか?)
『私の魔法で火の精霊力を高める事は出来ます。ただ……』
(ただ?)
『完全に同じという訳にはいきません。そのため、今の状態よりは強くなりますが、ドワーフたちが思っているよりも火の精霊力が弱かったり、それ以上に強かったりするかもしれません』
(なるほど。だが、一先ずやるしかないな。元々ドワーフの力を借りに来たのに、そのドワーフが鍛冶を出来ない状態だしな)
とりあえず、俺の話を聞いて居なかった者が多そうだし、もう一度言っておくか。
「同じ事を繰り返すが、火の精霊力は戻す! だから、一旦落ち着いてくれないか!」
「戻すって言ったって、どうやって戻す気だ!? というより、そもそもどうやって火の精霊力を下げたんだ!?」
「ここへ来るまでの間に、溶岩地帯があっただろう。そこのサラマンダーが大量に居た場所で、水の精霊力を高める魔法を使ったんだ」
「水の精霊力を高める魔法……って、そんなのエルフの中でも高位の術者が使うような魔法じゃないか。お前たちの中にエルフが居るようには見えんが……いや、それよりもだ。その、サラマンダーが大量に居る場所とは何だ!? 確かに、この火山には侵入者を防ぐ為のダンジョンを仕掛けているが、そんな場所は無いぞ!?」
「え? でも、来る途中にあったぞ? 周囲が溶岩に囲まれた場所を進んだ先に」
「溶岩に囲まれた場所の先……って、どうやってそんな所へ行ったのだ? そんな場所、到底近づけんだろ」
あれ? あの溶岩に囲まれた場所って、ドワーフたちのダンジョンじゃないの!?
そういえば、最初に足を踏み入れた時も、造られたダンジョンではなさそうだって、クレアが言っていたっけ。
……つまり、あれは見た目通り行き止まりで、別で正解の道があったって事か。
で、ショートカット? みたいにダンジョンの別の場所に出てしまったと。
どうりで、あの場所が異様に暑かった訳だ。ドワーフも通らない道って事だしな。
「あー、とにかくだ。今すぐ、火の精霊力を戻してくるから、少し待っていてくれ」
ドワーフたちは急いでいるみたいだし、俺も急いで聖銀で剣を作ってもらいたいし、すぐさま戻ろうと思ったのだが、ドワーフの大群に囲まれてしまった。
「待て。お前たちが、このまま逃げる可能性もある。誰か一人、人質として置いていってもらおうか」
「人質だと!? だから、俺たちはすぐに戻ってくると言っているだろう!」
「信用出来るかっ! お前たちが何故ここへ来たのかは知らんが、炉はワシらにとって非常に重要なもので、このままだとまた別の土地へ移動しなければならない程なのだ。ただでさえエルフの高位魔法を使うと言ったり、溶岩の中を進むと言ったりと、怪しい言動のお前たちを信用出来ん」
ドワーフ側の言いたい事は分からなくもないが、だからと言って人質なんてものは出せない。
仲間以上に大切なものなんて無いからな。
だが、実際問題どうする? 力づくで突破する事も、瞬間移動で逃げる事も出来る。
しかし、どちらも本来の目的である聖銀の加工には結びつかない。
ならば人質に応じるか……と言われても、人質として出しても良いと思えるのは俺だけで、女性は絶対に許可出来ない。
けど、俺が人質になってしまったら、誰も火の精霊力を戻せないから、結局意味が無くなってしまう。
どうすれば良いかと悩んで居ると、
「ヘンリー様。私が人質として残ります」
クレアが人質になると名乗り出た。
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