アタランテ獣化事件後、拠点としている小屋に戻ると、本人は居たものの我に返った恥ずかしさからか、自分の部屋から出てきてくれなかった。
夜中にマーガレットが俺の部屋へ遊びに来たものの、いろいろあった後だからと追い返し、平穏な夜を過ごす。
ちなみに、ライオンに変身してしまったアタランテが着ていた服は破れており、持っていた弓などはルミが拾って運んできてくれた。
そして、翌朝。一晩明けて、アタランテも復活してくれたので、
「じゃあ、三人は昨日行っていない分岐の先の確認を頼む。おそらく、魔法生物などは居ないと思うけど。また日が落ちる前には来るから」
「……り、了解だよ」
「はーい。お兄さんも忙しいねぇ」
「分かったー。ルミに任せてー」
今日の指示をして、テレポートで寮の自室へ。
着替えて、授業の準備をして、またテレポートで学校へ。
……テレポートめちゃくちゃ便利だな。というか、魔法全般。
『そうでしょう、そうでしょう。ヘンリーさんは私にもっと感謝してくれても良いんですよ?』
(はいはい。アオイには感謝してるよ)
これは本当。でも、アオイだけじゃなく、来てくれた英霊たちに、協力してくれるエリーや、フローレンス様にももちろん感謝しているけれど。
そんな事を考えていると、
「もぉ、どうしてアンタはウチが着替えている時を狙って来るの?」
デジャヴだろうか。シャツとパンツだけという、ほぼ下着姿のソフィアが居た。
「いや、というかソフィアも俺がここへ来るって分かっているだろ?」
「な……そ、そんなの分かる訳ないでしょ!」
「でも、昨日も同じ時間にここへ来たんだが」
下着姿で恥ずかしいのか、ソフィアの顔が急に紅く染まっていく。
うむ。恥ずかしがる女の子は良い。実に良い。
それだけで、可愛さが三割増しになる。
「へぇ、今日は赤のレースなのか。何だか、ソフィアのイメージと違って意外だな」
「……な、何の話なの?」
「いや、ちょっと背伸びし過ぎというか、大人ぶっているというか。個人的にはやっぱり王道の白が……」
「……? ――ッ!? あ、アンタ。ウチがこの格好のままアンタを待って、見せてあげたっていうのに!」
「……待って、見せて……?」
「あっ! ……な、何でもないわよっ! この変態っ!」
あれ? 偶然ソフィアが着替えているタイミングで魔法訓練室にテレポートしてしまったと思っていたけれど、そうじゃない……のか?
「もぉ……アホーっ!」
いろいろ考えているうちに、ソファアが着替えを済ませ、思いっきり叫んで逃げて行った。
耳まで真っ赤に染めて怒っていたし、流石にソフィアが自ら俺にパンツを見せようとしてくれる訳なんてないか。
どうやら、俺の勘違いらしい。
俺も基礎魔法コースの教室へ移動し、
「ハー君、おはよー!」
いつもの様にエリーから抱きつかれる。
昨日抱きつかれたマーガレットの大きな胸の弾力も良いけれど、エリーの小ぶりだけれども、一番感触を味わせてもらった、定番とも言える柔らかさも良い。
何と言うか、触れていると落ち着くような、安らぐような、ホッとする感触だ。
『ヘンリーさん。私、意味が分からないんですけど』
(ふっ……女子供には分からんさ。このロマンが)
『この先も分からないと思いますし、分かりたくないです』
そんな事をしながら一日の授業を受け、昼休にエリーが作ってきくれたお弁当を食べている時、それは起きた。
「ヘンリー! ヘンリー=フォーサイスは居るか!?」
突然教室の扉が開かれ、野太い男の声が響く。
「なんだろー? ハー君、呼ばれてるよー?」
「知らない奴だから、放っておこう。それより、そっちの玉子焼き貰っても良いか?」
「うんっ。これはねー、ちょっとお出汁を入れてみたんだー。はい、あーん」
「いや、自分で食べられるって」
「もー、ハー君ってばー。遠慮しなくても良いよー。ほら、あーん」
「えー……あーん……お、旨いな!」
「でしょー! エリー、最近は料理も頑張っているんだー。この前、ハー君がお母さんの料理を美味しいって言ってたから。エリーだって、負けてないんだからねっ」
「あぁ、そうだな。エリーは料理も上手いよ」
「えへへ、ハー君に褒められちゃったー」
美味しい玉子焼きに舌鼓を打ちながら、エリーの頭を撫でていると、
「ヘンリィィィッ! 無視するなよぉぉぉっ! ていうか、リア充かよっ! 爆発しろよっ!」
「チャーリー様! あいつ、男の三大憧れの一つ、美少女からの『はい、あーん』をされてましたよっ! 死ねばいいのに!」
「チャーリー様ぁっ! この教室、本当にあの男以外、女の子しか居ませんよぉぉぉっ! 匂いが、匂いが違いますっ! 教室中にお花畑みたいな香りがしますぅぅぅっ!」
どこかで見た事があるような男たちが教室に入って来た。
「……あ! お前たちは、士官学校のチャ……まぁいいや。で、俺に何の用だ?」
「俺はチャーリーだっ! おい、ヘンリー。聞いたぜ。運良く王宮に仕官出来たんだってな」
「ん? あぁ。何だ、お祝いパーティでも開いてくれるのか?」
「バカが。運だけで仕官出来たが、召喚士は学校の恥だからって、お前を倒したら、代わりに騎士団へ入れて貰えるって話らしいじゃねーか」
「……何だそれ? どこからどうやって士官学校側へそんな話が伝わったか知らないが、全然違うんだが」
「問答無用! お前も、彼女の前で恥などかきたくないだろう。逃げずに、俺からの決闘を受けろ!」
やれやれ。この前は魔法学校側の全生徒に言ったからな。
部外には変な風に捻じれて伝わっても仕方が無いか。
だがチャーリーの言葉に、俺よりもエリーの方が反応する。
「違うもん!」
「ん? 何だ? お前の彼氏は決闘から逃げる様な臆病者じゃないってか? はん、これだからリア充共は」
「違うのっ! ハー君はエリーの彼氏じゃないもん。エリーがママで、ハー君はパパなんだもん!」
「――ッ!? ぐ……ぐぅぅぅ。ぐはぁぁぁっ!」
あ、チャーリーが倒れた。
というか、その子分みたいな二人まで、その場で崩れ落ちた。
もしかして、床に寝転がり、教室に居る女の子たちのスカートの中を覗こうという魂胆か!?
だったら俺も……と、便乗して寝転がり、近くに居たダーシーちゃんのパンツを見ようと企んだ所で、
「く……ヘンリー。今日の放課後、士官学校の第四グラウンドで待つ。そこで……勝負だ」
「チャーリー様、俺はもうダメです。殺意が、殺意が抑えられません」
「あぁぁぁ……何というリア充。これが、これが絶望と言う奴なのかっ! くっ、殺せっ!」
良く分からないが、それぞれ変なリアクションと共に教室を出て行った。
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