英霊召喚 ~ハズレと呼ばれた召喚魔法で、過去の大賢者を召喚して史上最強~

向原 行人
向原 行人

第266話 幼女保護

公開日時: 2021年4月18日(日) 08:08
文字数:2,187

街の通りに誰も居ないという事は、その辺でテレポートを使っても誰にも見られないし、これはこれで好都合かも。

 一瞬だけそう思ったが、建物の中に沢山人の気配ががある。

 そこかしこから視線も感じるし、おそらく何らかの理由で家の中に居なければならない人たちが、俺たちの事を見ているのだろう。

 これじゃあ、テレポートを使えないじゃないか。

 最悪、夜中まで待てば良いけれど、そろそろ家に帰りたいというのが本音だ。


「にーに。どうかしたのー?」

「ん? んー、いや、ちょっと考え事をな」


 良く考えたら、俺一人ならどうにでもなるが、可愛いユーリヤがお腹を空かせるのは避けたい。

 うむ。ユーリヤのためにも、とっとと帰ろう。

 食事の事とかを抜きにしても、この街はまともな状態ではないのは明らかだし、どこか視線を感じない場所を探そう。

 そう思った直後、街の反対側から砂埃を巻きあげながら、何かが向かって来るのが見えた。


「……あれは、なんだ?」


 まだはっきりとは見えないが、馬車……を鉄の板などで補強したもの――戦車と呼ばれる物のように思える。

 実物は初めて見るので定かではないが、確か歴史の教科書に載っていた気がする。


――戦車とは、古代の国々で発案され、正式に採用されていた戦闘用馬車である。

  荷台を鉄板などで補強し、物理攻撃に対する防御力を高めている。

  ただし、一方で魔法攻撃に対する防御力は低く、また突進力はあるものの小回りがきかないという問題もあるため、現代では騎兵に代わっている――


 そうそう。確か、大昔に使われていたって書いてあったよな……って、この国では現役で使われているのか!?

 まさか……だがしかし、徐々に近づいてくるにつれて、戦車のイメージ通りの姿が目に映る。

 ある意味、古代遺産だよな。

 そんな事を考えていると、


「ちょっと、何してんのっ!? 早く隠れてっ!」

「え? 誰だ?」


 突然どこかから声が聞こえるが、周囲を見渡しても姿が見えない。

 気配を探ると、背後に誰かが居るみたいだが……


「もぉーっ! こっちよ、こっち! 早く入って!」


 民家の壁――腰くらいまでの高さしかない、小さな隠し扉みたいな所から出て来た人影に手を引かれ、ユーリヤと共に家屋の中へ。

 害意は無いので問題ないと判断したが、改めて声の主を見てみると、ルミやラウラくらいの……十歳くらいの幼女だった。


「えっと、ここは?」

「私の家よ。それより、帝国軍が来てんのに、どうして隠れなかったの!?」

「帝国軍? あの、砂埃を上げながら近づいていた奴らの事か?」

「そうよ……って、ちょっと静かにして。もうすぐ、近くを通りそうだから」


 幼女に言われるがままに、静かにしていると、家の外から「ヒャッハー!」という声が聞こえ、そして遠ざかって行った。


「……行ったみたいね。もう大丈夫よ」

「……えっと、あいつらは一体何なんだ? すまない。実は、今日この街へ着いたばかりで、よく知らないんだ」

「え? 他の街から来たの!? どうやって!?」

「いや、普通に来ただけだが。街の入口に居た兵士も、普通に通してくれたぞ?」

「ま、街を出られるの!? 教えて! 他の街と、この街……どっちがマシ!?」

「待った。とりあえず落ち着いてくれ。さっきも言ったが、この街の事、この国の事を良く知らないんだよ」

「え!? まさか、他の街じゃなくて、他の国から来たの!?」


 幼女の問いに頷くと、目を白黒させて驚きながらも、何が起こっているのかを説明してくれた。

 曰く、一月程前から国内で紛争が発生し、一週間に三回、帝国軍が若い男性を探しに来ては、無理矢理兵士にしてしまう。

 幼女はもっと幼い頃に母を亡くしており、唯一の肉親である父親も帝国軍に連れて行かれ、先日戦死したという知らせを受けた。

 なので、この街から離れ、別の街に逃げたいと考えている……と。


「だが、いいのか? この家は、その……お父さんと暮らした思い出があったりするんじゃないのか?」

「そんなの無い。父さんが亡くなったって連絡と同時に、不要だろうからって家を没収されて、この小さなボロ家に無理矢理住まわされたから」

「……それは、酷過ぎないか?」

「もう、いいの。逆に未練も無くなったし。ねぇ、おにーちゃんは他の国から来たんでしょ? 連れて行ってよ」


 幼女の話を聞いてしまったので、助けてあげたいという気持ちもある。

 だが、家を没収されたと言っても、まだ家自体は残っているはずだから、力づくで取り戻して……いや、ダメか。

 そんな事をしても、後々理不尽過ぎる報復をされかねない。

 本人が望むように、この街というか、国から亡命させてあげるべきだろうか。


「まぁ出来なくはないんだが……」

「ホントっ!? お願い、連れて行って! 家事でも何でもするし、何ならエッチな事でもするから!」

「あのな……子供がそういう事を言うなって。ただな、連れて行っても良いけど、その方法は絶対に喋っちゃいけないのと、もうこの国には戻れなくなる。それでも良いか?」

「もちろん! 絶対に喋らないし、戻れなくても良いわ!」

「わかった。じゃあ、連れて行ってやるから、絶対に持って行きたい物を集めておいで」

「……おにーちゃん、ありがとっ!」


 それから暫くして、幼女が小さな箱を持って戻ってきた。

 一応確認はしたが、家を追い出された時に大半の物を失っており、これが全てらしい。


「じゃあ、行くか。……テレポート」


 ……屋敷にまた一人、幼女が増えてしまった。

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