第205話 全てを理解した父の暴走
「ソフィア、すまない。待たせたな」
ノーマが俺たちを呼びに来てから更に少し時間を使い、父親を人前に出せる格好にしてゲストルームへとやって来た。
とりあえず服は着させたものの、そもそもこの父親は見た目とかではなく、人の性質としては人前に出せる人物ではないのだが。
「は、初めまして。ヘンリーさんと同じ学校に在籍しております、ソフィア=ロックフェラーと申します」
「トリスタン=フォーサイスです。ソフィアさん、この度は愚息にお付き合いいただき、屋敷まで来て頂き真にありがとうございます」
な、なんだと。あの父さんが、普通の紳士みたいに振舞っているだと!?
予想ではソフィアに会った途端、「最高のAランク美少女だっ! うっひょー!」とかって飛びつくんじゃないかと思って、いつでも蹴り飛ばせるように構えていたのに。
まぁこれはこれで話がスムーズに進むので良かったと安堵しながら、向かい合ったソファーの対面に二人を座らせ、俺はソフィアの隣に座ったのだが、その直後、
「あ、あの、お父様? どうかされましたか?」
ソフィアが困惑したような声を上げる。
一体何をやらかしたのかと思って父さんに目を向けると、何故か涙を流していた。
「えっ!? と、父さんっ!? どうしたのっ!?」
「……どうして。どうして、この国は一夫一妻制なんだろうな、ヘンリー」
「は? 父さんは何を言っているんだ?」
「アタランテちゃんにノーマちゃん、メリッサちゃんとユーリヤちゃん……そこに、このソフィアちゃん。ヘンリー。この領地だけ治外法権にして、一夫多妻制に出来ないかな?」
「……ぉぃ。バカ親父。何を考えているんだ!?」
「ソフィアちゃんをヘンリーの奥さんにして義娘にするか、もしくは私の第二の妻に出来ないかって……げふぅっ!」
父さんが俺の想定を上回る反応をしたせいで、ツッコミ(物理)が遅れてしまった。
というか、その嫁リストの中にユーリヤを入れるなよ。酷過ぎるっ!
ソフィアが怒っていないかと思ってチラリと顔色を伺うと、完全に固まってしまっていた。
まぁあんな事を言われれば、そりゃそうなるよな。
「あのさ、父さん。ソフィアを義娘にするのはともかく、あんたの第二の妻ってなんだよ!」
「ヘンリー。このお嬢さんと結婚しなさい。そして、可愛い女の子を四人くらい作るんだっ!」
「何だよ、その妙にリアルな子供の数は! 第一、ソフィアは十四歳だ。未だ結婚なんて出来ないぞっ!」
「くっ……だが子作りは出来るぞっ! 父さんだって、母さんが未だ……ぷげふっ!」
この国では十五歳で成人とされるが、今の母さんの年齢が二十九。そして俺の年齢が十五……年齢の話はタブーな気がするので、とりあえず殴っておいた。
「ヘンリーさん。あまりお父様を叩いてはいけませんよ。お父様はその……お、お孫さんを熱望されているだけですし」
「おぉぉ、ソフィアちゃん……まるで君は天使のようだ」
「まぁ、お父様ったら。天使の様に可愛いだなんて、褒めすぎですよ」
ソフィアが猫被りモードになっているが、それはさておき、父さんはソフィアを天使みたいだとは言ったものの、天使みたいに可愛いなんて言っていないと思うんだけど……まぁ良いか。
このまま放っておいたら父さんが暴走するだけだし、さっさと本題に移ろう。
「あー、話が脱線してしまったから、そろそろ本題に移ろう。ソフィア、頼む」
「……本題? 本題って何の事? ヘンリーのお父様にウチを紹介してもらうのが、本題でしょ?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 俺がこの村の領主になって、父さんが領主代行になったんだけど、何をすれば良いか分からないから、統治についてソフィアの知っている事を話して欲しいっていうのが、今日の趣旨なんだけど」
「…………はぁ!? はぁぁぁっ!? ちょっと、アンタっ! どういう事なのよっ! お父様にウチの事を紹介するんでしょっ!?」
「あぁ。だから紹介しただろ? で、本題の統治の話をして欲しいんだが」
何故かソフィアが顔を真っ赤に染め、わなわなと震えている。
何もおかしい事はしていないはずなのだが、一体何がどうなっているのだろうか。
しかも、ソフィアがキッと俺を睨みつけ、
「アンタは本当に、本当にいーっつも思わせぶりな態度をとるのねっ! 今日だって、ウチを押し倒そうとしたのに、結局何もしなかったしっ!」
「いふぁい……いふぁいって、そふぃあ」
怒りながら俺の左右の頬を抓ってくる。
どういう訳か、ソフィアが涙目になっているけれど、頬が結構痛いので、泣きたいのは俺の方なんだけど。
それに、俺がソフィアを押し倒すって何の話なんだ。そんな恐ろしい事を俺がする訳ないだろう。
ソフィアの理不尽過ぎる攻撃を受けていると、
「はっはっは。なるほど、そういう事か。ソフィアちゃん、ヘンリー。お父さんは、全て分かったよ」
意味不明な事を言いながら、父さんが立ち上がり、俺たちに近づいてくる気配がした。
だが、ソフィアが両手で俺の頬を抓り続けていて、強制的に俺の顔がソフィアに向けられ、父さんの行動が視界に映らない。
一体、何をする気なのかと思っていると、突然後頭部が押され、目の前のソフィアの顔が視界いっぱいに広がって……
「――ッ!?」
「――――――!?」
俺とソフィアの唇が重なり、更に歯までぶつけられた。
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