ピンクスライムの毒を受けたアタランテが、四つん這いのエロいポーズのままジリジリと寄って来る。
猫耳と尻尾のビジュアルもあって、その姿はもはや発情期の猫のようだ。
……というか、もう良いよね? アタランテから誘ってきてるもんね。
『って、ダメですよ! 毒が抜けて素に戻った時、刺されても文句は言えませんよ?』
(いや、だけどさ。誰がどう見ても誘ってるだろ? 据え膳食わぬは男の恥とも言うしさ)
『今まで、その据え膳を散々スルーしてきたのに今更ですか!?』
(据え膳をスルー? そんな事、あったっけ?)
『それはもう何度も……って、そんな事よりも、正気じゃない状態でそんな事をされたらアタランテさんも悲しみますって。しかも、人前ですし』
あ……そうだった。ルミとマーガレットの事をすっかり忘れていた。
ルミはキョトンとしているけれど、一方でマーガレットは興味津々らしく、仲間になりたそうにこちらを見ている。
マーガレットを仲間に入れたい所だけど、初めてはノーマルが良い。
……仕方が無いので、一旦洞窟から出るか。
「お兄さん。私はここでも構わないよ?」
「俺が構うわっ! というか、ルミも居るのに何をする気だよっ!」
「何って……ナニかな」
そう言いながら、マーガレットが抱きついてきた。
やっぱりマーガレットもピンクスライムの毒にやられているんじゃないのか?
『いえ、改めて確認しましたが、マーガレットさんは健康そのものです。ただ、アタランテさんの状態に便乗しているだけですね』
マジか。マーガレットは何をしているんだよ。
というか、胸を押し付けるのはやめてくれ。俺の理性がもたないから。
「……お、お兄ちゃん。た、大変だよっ!」
今度はルミが大きな声をあげる。
ルミはピンクスライムの毒があまり効いていないと聞いていたけれど、バタバタしている内に毒が体内に回ってしまったのだろうか。
「ルミ、どうしたんだ? まさか、ルミまで身体がおかしいのか?」
「おかしいのはルミじゃないよ。猫のお姉ちゃんが……」
「あー、アタランテはエロ――もといピンクスライムの毒にやられているからな。少しおかしく思えるかもしれないけれど、今回は見逃してくれ」
「そ、そうなの? ピンクスライムの毒でこんな事になっちゃうの!?」
「まぁ驚くのも無理は……」
ルミの驚く表情を見て、その視線の先、アタランテへ顔を向けると、そこには発情期の猫――というかライオンが居た。
「でぇぇぇっ!? ちょ、アタランテ……なのか?」
「がぅぅぅ」
心なしか、甘えているような鳴き声だが、それでもそこに居るのは、大きなメスライオンだ。
どうしてこうなったのかは分からないが、このライオンがアタランテだとすると、攻撃する訳にもいかない。
というか、そもそも襲って来ないと思うのだが、四つん這いで、後ろ脚に力を貯め、今にも飛びかかりますといった格好となっている。
「がーぅー」
というか、飛びかかって来たーっ!
「ルミ! 危ないから、離れて!」
ルミに一言告げた後、すぐ傍に居るマーガレットを抱きかかえ、猛ダッシュで逃げる。
「がぅがぅー」
「お、お兄さん。すぐそこまで迫って来ているよ!?」
「喋るな! ここから本気で走るぞ!」
神聖魔法による身体強化が欲しいと思いながら、とにかく走る。
だが走って走って走りまくり、視界に洞窟の入口が見えたという所で、ライオン姿のアタランテに回り込まれてしまった。
行く手を遮られた俺は、一先ずマーガレットを下に降ろし、囮になるつもりで両手を広げる。
「がーぅぅー」
甘える様なライオンの鳴き声と共にアタランテが飛びかかってきて、俺は地面に押し倒された。
これがただの魔獣ならどうにでもやりようはあるのだが、この状況で俺はどうすれば良いのだろうか。
押し倒してきたアタランテライオンが、強い力で俺を抑えつけ、大きな舌でベロベロと顔を舐めてくる。
本人はじゃれているつもりなのだろうが、俺はただ耐える事しか出来ずにいると、
「キュアポイズン」
不意にマーガレットの声が響いた。
その直後、一瞬ライオンの身体が光輝いたかと思うと、いつもの良く知るアタランテが、小さな舌でペロペロと俺の顔を舐めてくる。
「え? ちょ、アタラン……むぐっ」
喋ろうとしたら、口を舐められた。
……これって、キスか? キスに分類されるのか?
顔を舐め続けられながらも視線を動かすと、アタランテは全裸で……って、普段の姿に戻っているのだから、俺が起き上がれば良いのか。
両腕でアタランテの身体を離し、
「アタランテ、落ち着いて。アタランテってば」
「もぉー、どうして? これから良い事……って、あ、あれ? 私は……?」
「アタランテちゃんはピンクスライムの毒を受けて、暴走していたみたいねー。毒がどう影響したのかは分からないけど、お兄さんに猛烈にアピールしていたのに何もしてくれなくて、不満が爆発してライオンになっちゃったのかな? 詳しい原因は分からないけど、何にせよ毒を治療したら元の姿に戻ったよー」
マーガレットの説明を聞いている内に、身体をプルプルと小さく震わせ、顔が真っ赤に染まっていく。
「とりあえず、アタランテちゃんは欲求不満だったみたいだから、お兄さんがちゃんと相手してあげなきゃ。あ、それから私も欲求不満だからー、お兄さんが相手してねー」
「よ、欲求不満……や、やだ。バラさないでー!」
あ、アタランテが全裸で逃げた。
とりあえず欲求不満は真実なのか。
欲求不満状態でピンクスライムの毒を受けると、ライオンに変身するのか?
『アタランテさんは生前に聖域でエッチな事をして、神様にライオンの姿にさせられたと言っていたので、特殊ケースかと』
(いや、特殊過ぎるよっ!)
『まぁ欲求不満でも、普通はあんな事にならないみたいですし、ピンクスライムに近づかなければ大丈夫なんじゃないですか?』
(……エロスライムの毒でいろいろ出来ると思ったんだけどなぁ。とりあえずアタランテには使っちゃダメか)
『ほら、やっぱり! ヘンリーさん、ピンクスライムを良からぬ事に使おうとしてましたね!』
(あ、いや、その……大丈夫。アタランテには使わない事にするから)
『アタランテさん以外の方にもダメですよっ!』
一先ず、ピンクスライムを材料にしてエッチな薬を作るという俺の密かな計画は、一時中断する事にした。
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