エルフの村と取引が始まってから、一週間が経過した。
最初はダークルエルフたちはともかく、サロモンさんやルミたちエルフが人間の貨幣の価値を全く理解していないから、中々大変だったものの、一先ず軌道に乗ったと言える。
……本当に最初の最初は、物々交換からだったけどさ。
マジックアイテム担当の父さんとクレア、パンケーキ担当のメリッサとエリザベス。あと、エルフの村にしか無い物の価値を教えてもらうために、イロナがサポートに入って、この五人が一先ずの取引チームとなっている。
で、エルフの村から買った品物を持って、いつもの通りユーリヤと共にフローレンス様の所へ報告しに来た。
「ふぅーん。で、これがその品物なのね?」
「あぁ。例えば、その小瓶はマジック・ポーションって言って、飲むだけで魔力が回復するそうだ。今は、それが二百本程ある」
「分かったわ。今回はその品を国で全て買い取りましょう。他に、エルフの村を取引するにあたって、必要な物はあるかしら?」
「エルフの村から買った品を、あの村から王都や近隣の街へ運びたいんだが、人手が無い。今回は俺が運んで来たが、毎回そうする訳にはいかないだろう」
まぁ、フローレンス様には言っていないけど、テレポートで瞬時に運べるから、俺が運んでしまうのが一番速くて、かつ安全で費用もかからないんだけどな。
とはいえ、俺が前線に戻る為に父さんを領主代行にしたというのに、運搬ばっかりしていては本末転倒だが。
「冒険者ギルドに依頼すれば?」
「そうしたいんだが、そもそもあの村に冒険者が居ないんだ。ギルドはあるけど、暇すぎるからか、受付嬢が牛を育てて居たぞ」
「え……受付嬢が牛の育成って意味が分からないんだけど、とりあえず王都にある冒険者ギルドから、人を派遣するように言っておくわ」
「そうだな。だったら、王都からマックート村への荷物の運搬の依頼を出せば良いんじゃないか? 冒険者も村へ行くだけで収入になって、帰ってくる時にまた収入となるから、人が集まり易いだろ」
「なるほどねー。ヘンリー、やるじゃない。じゃあ、エルフの村との取引開始祝いとして、何か適当に見繕って送るようにするわ」
これで王都から人や商人が来るようになれば、物流が出来、人が流れるようになる。
そうすれば、冒険者ギルドや宿屋に仕事が出来るし、屋台でも始めて上手く行けば、村の作物からパンケーキに次ぐ名物が生まれたりするかもしれない。
「そうそう。そのエルフたちの心を射止めたデザートっていうのは、今日は無いの?」
「流石に持って来れないな。温かいデザートだから、是非出来立てを食べてもらいたいな」
「そう……残念ね。せっかくだから、そっちの村に行っても良いっていう料理人が居ないかも聞いておくわ。同じ味が出せるようになれば、王都でもそのデザートが食べられるでしょ」
「まぁそうだけど……難しいかもしれないけど、機会があったらフロウも視察とかに来てくれよ。もてなすからさ」
「そうね。私も行けるのなら行きたいのだけれど、これでも中々忙しいのよー」
そう言って、フローレンス様が小さく溜息を吐く。
領主になっただけでも、かなり大変だったんだ。
第三王女ともなれば、苦労は俺の比では無いのだろう。
「にーに。おひめさまは、こないのー?」
「んー、お姫様は忙しいんだよ」
「そーなんだー。あのねー、ケーキすーっごくおいしいよー?」
あ、ユーリヤの言葉でフローレンス様の口元が僅かに引きつった。
本当は凄く食べたいんだろうな。
「まぁ頑張って村を発展させて、フロウを来賓に出来るくらいのイベントを開けるように頑張るよ。そうすれば、国の仕事って事で来られるだろ?」
「そ、そうね。是非、お願いするわ」
一先ず、フローレンス様にこれまでの事を報告して、エルフの村と取引した品も納めた。
なので、そろそろ帰ろうかなと思った所で、真剣な表情のフローレンス様が口を開く。
「ところで……前から依頼されていた、ドワーフの国探しについて、ついに見つけたわ」
「――ッ! ドワーフの国があったのか!?」
「えぇ。場所は、南東に隣接する国、ヴァロン王国よ」
ヴァロン王国はブライタニア王国よりも大きな国で、とりわけ騎士団が強いという話を聞いた事がある。
しかも、我がブライタニア王国が南北に長く、王都もマックート村も北部にあるので、隣の国と言いながらも、かなり遠い。
これはソフィアたちと地道に探していても見つからない訳だ。
「ヴァロン王国……遠いな。一先ず今すぐ入国手続きを……」
「それには及ばないわ。ヴァロン王国とは軍事協定を結んでいるから、少数であれば騎士隊も行き来出来るし、既にヘンリーの入国手続きも済ませてあるの」
「お、それは助かる」
「エァル公国の時は、かなり待たせてしまったもの。今回はちゃんと準備済みよ。それと、魔族によって石にされてしまった騎士たちが、今回の遠征について行きたいと志願しているわ。あまり大勢では行けないから、その中からヘンリーが選んで連れて行ってくれるかしら」
「いいのか?」
「えぇ。皆、ヘンリーやマーガレットさんに感謝しているし、ドワーフなんて普段の任務では会う事なんて先ずないもの。経験を積むにはもってこいよ」
いや、ドワーフには聖銀で武具を作って欲しいと依頼しに行くだけだから、特に経験を積むような事もないんだけど。
一先ず村は一旦父さんたちに任せ、第三王女直属特別隊としてヴァロン王国へ遠征する事となった。
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