有益な情報は無かったものの、ドラゴンに関する情報収集を一通り終え、今度は聖銀の加工について調べる事にした。
せっかく聖銀を取って来たのだから、出来れば武器に、無理ならせめて防具にして貰いたい。
「せ、聖銀については纏まっておらず、聖剣や聖槍といった、神器と呼ばれる武具で纏められているので、ちょっと探すのが大変かもしれません」
「そうですか。一先ず、少しずつ読んでみる事にします」
「わ、分かりました。私も探してみますので、何かあればお持ちいたしますね」
シャロンさんがテテテと棚の間を駆けて行く。
考えてみれば、騎士たちにとって重要なのは武器や盾であり、その素材に注目しないよな。
伝説級の武器については、ちょっと見てみたい気もするけれど、余計な事をしていたら時間がなくなってしまう。
なので自身の好奇心を抑えつつ、素材の加工――錬金術関連の資料に目を通す。
暫く錬金術に関する書物を読んでいると、ページとページの間に、明らかに怪しい一枚の紙切れが挟まっていた。
シャロンさんは聖銀に関する本を探してくれているらしく、近くに居ない。
勝手に見ても大丈夫だろうか? ……まぁ見るだけだし、大丈夫だよな? 実は何て事の無い内容かもしれないし。
二つ折りになったその紙を手に取り広げてみると、
――惚れ薬(エロ効果付き)の作り方――
と書かれている。
ふむ……とりあえず、続きを読んでみよう。
――このメモを手にした錬金術士の君は、超ラッキーだ。材料は少し入手し難いが、たった二つの材料で、意中の相手と確実にエッチな事が出来るのだから――
キョロキョロと周囲を見渡してみても、シャロンさんは居ない。
うん、大丈夫だ。
――材料はピンクスライムと、クリムゾンオーキッド。この二つを混ぜ合わせる事で、一時的に相手が君に惚れ、その上エッチな気分になるという優れ物だ。グッドラック!――
なるほど。
確かクリムゾンオーキッドって、あの幻覚を見せる花だったよな。
あれなら幾つか採取していたはずだし、ピンクスライムだって何かに使えるかもしれないと、空間収納魔法に入れておいた。
……これは、使えるな。
『使えるな……じゃないですよっ! 何に使う気なんですかっ!』
(いやいや、ほらせっかく昔の人が残した資料にあるんだから、本当に効果があるかどうか試してみるだけだって)
『試してみる……って、それは普通にダメですよっ!』
(でも、資料に書かれている事が事実かどうか検証する事は大切だろ?)
『確かに大切ですが、それでも先程の薬はダメですっ! 非人道的過ぎます!』
非人道的は流石に言い過ぎなような気もするんだが、それよりも、作り方が錬金魔法か。
アオイは錬金魔法が得意では無いって言っていたし、そもそも今の感じだと使ってくれなさそうだしな。
何とかエリーに適当な事を言って作ってもらおうか。
「あ、あの、ヘンリーさん。聖銀に関する資料を集めてきましたけど……」
「シ、シャロンさんっ!? い、いつの間に!?」
「はい? 今、戻ってきた所ですが?」
そう言いながら、突然現れたシャロンさんが、両手で抱えていた沢山の本を傍にあった台に置く。
特に変な事はしていないはずなのに、どういう訳か焦ってしまった。
「あ、あの……私に何か?」
俺が見過ぎたせいか、シャロンさんが本を置いた姿のまま固まってしまった。
そのポーズ、本の上にシャロンさんの胸が乗っかっているんだけど……デカイな!
『ヘンリーさん。ダメですからね!?』
(いや、分かっているってば)
『さっきの薬の話……覚えてますからね』
(流石に初対面のシャロンさんに使わないって)
『初対面じゃない人に使う気満々じゃないですかっ!』
(しまった、誘導尋問かっ!)
アオイの誘導尋問にやられつつ、シャロンさんが持って来てくれた資料に目を通して行くと、気になる記述を見つけた。
「ん? これは!?」
「あ、それはですね……」
シャロンさんが近づいてきて解説を始めようとしてくれた所で、突然大きな轟音が響き渡る。
「何だっ!?」
「わ、分かりません。部屋の奥から凄い音がした気がします」
一先ず資料をその場に置き、音がした方に向かってシャロンさんと共に走って行くと、
「にーに」
「ユーリヤ!? どうしたんだ? ……って、この穴は!?」
暫く姿を見ていなかったユーリヤが、子供が通れるくらいの穴の前で立って居た。
「にーに。ここ、なにかある」
「……ユーリヤ。もしかして、この穴はユーリヤが開けたの?」
「うん。にーに、いこっ!」
ユーリヤが一切悪びた様子無く、穴の中へ入って行こうとする。
ただの俺の予想だけど、おそらくこの先って第二資料庫ではないだろうか。
俺たちには見せられない、もっと危険な資料が置かれた場所にある物だから、壁越しにユーリヤが検知してしまって、でも入り方が分からなくて……と、何が起こったのかは概ね推測出来たのだが、シャロンさんの顔をチラッと覗き見てみると、
「嘘……」
今にも倒れてしまうのではないかと心配になる程、真っ青になっていた。
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