令和はSF

あがつま ゆい
あがつま ゆい

第4話 カーナビはSF

公開日時: 2022年4月30日(土) 19:00
文字数:1,832

 竜也たつやが通う学校が春休みの最中に、ふと30年前の格好のまま帰ってきた竜二りゅうじの兄、竜一りゅういちが現れたものだからちょっとした騒ぎになった。

 竜一が30年ぶりに実家で夜を明かした翌日の昼……竜二は兄を呼び出し妻の咲夜さくやと一緒にある場所へ行って来てくれと命じた。




「兄貴は咲夜と一緒に法務局に行って新しく戸籍こせきを作ってくれ。もう30年も前に死んじまったから古い戸籍はとっくに抹消まっしょうされているからな」


「法務局? 市役所とかじゃないの?」


「今の兄貴は「無戸籍児」だから今日行ってすぐ作るってわけにはいかないんだ。だから法務局に行って改めて戸籍を作る必要があるんだ。それと、シートベルトはきっちりと締めろよ」


「へぇ~「無戸籍児」ねぇ。そんなのがあるんだ」


 日本人でありながら日本の戸籍こせきがない「無戸籍児」はごく少数だが実在し、大抵は離婚などの家庭内トラブルの末に産まれた子供が相場だ。

 本来なら「無戸籍児」は親権などの権利交渉や各種トラブルで散々こじれにこじれきっており、専門家でも手が焼く厄介な案件である。

 とはいえ竜一の場合は特にトラブルなどは無いので話はすんなりと進むだろう。その辺だけは幸いであった。




 竜一は改めて家の駐車場を見ると、彼の常識から言えばかなり小型の車が停まっていた。


「これが30年後の車かー。なんかずいぶんと小さくなってないか?」


「軽自動車って言って最近はこれが主流よ。小型で乗りやすいのよね」


「へぇ。軽薄短小けいはくたんしょうってやつか」


「ずいぶん難しい言葉を知ってるじゃない。まぁいいわ、行きましょうか」


 2人は車に乗り込み、しっかりとシートベルトを締める。

 竜一は竜二から教わったことだが、法改正で車に乗る際には座席問わず全員シートベルトをしっかりと締めなくてはならないようになったそうだ。




「へぇ、中は結構広いなぁ。外から見たのとはだいぶイメージが違うなぁ……って、咲夜さん何やってんの?」


 咲夜は車のエンジンをかけると同時に何かディスプレイのようなものを操作し始めた。


「目的地、入力しました。ナビゲーションを始めます」


 女性の声が機械から聞こえてきた。




「『なびげーしょん』……? 何なのそれ?」


「カーナビって言って目的地を設定すれば自動でそこまでのルートを表示してくれるのよ。初めていくところもこれがあればたどり着けるようになってるわ」


「な、何ぃ!? 自動で目的地までのルートを!? ス、スゲェ! そんなハイテクな装置までついてるのか30年後の車には!?」


「そんなに驚くような物じゃあないと思うんだけどなぁ……」




 自動で目的地まで案内してくれる、というSF作家でも想像すらできなかった未来的アイテムに竜一は大興奮だ。

 一方で咲夜にとっては「どこがそんなに凄いのか、今一つピンとこない」というどう受け答えすればいいのか分からない微妙な感情だったのだが。


「いやいやとんでもなくスゲエ物だろ!? もう地図とにらめっこしながら車を運転しなくてもいいのか!? いやー30年後の世界は本当にスゴイなぁ。

 SF作家でも想像すらできなかった便利なものがポンポンと出てきてまるでSFの世界みたいなもんだなぁ」


 SFの世界にも出てこないような装置ガジェットに竜一は大興奮だ。そのまま車を走らせ最寄りの法務局出張所まで向かうことになった。




「次の交差点を右折してください」


 ナビゲーションの声に従って咲夜は車を運転する。


「……右折してくれとか言ってるけど本当に着くのかな?」


「大丈夫だって。きちんと案内してくれるから」


 初めて出くわす代物に竜一は懐疑的だったが、心配しなくてもいいと咲夜が諭す。自宅を発ってから20分ほどして2人は目的地である法務局の本局まで無事にたどり着いた。




「うわ、本当に目的地までたどり着いたよ。もう地図なんていらないんじゃないのか?」


「そうかもね。言われて気づいたけどここ何年も地図を広げたことは無いわねぇ。最後に見たのはいつだっけ? まぁいいわ。手続きをするから一緒に来てくれるかな?」


 咲夜に先導されるように竜一は法務局の出張所の中へと入っていった。

 中では用意された様々な書類に目を通し、そこに本日の日付と名前を書く欄それに印鑑を押す場所に咲夜が朝に用意したものを押してその日の手続きは終わった。




【次回予告】

 手続きを終えて後は結果待ちとなった竜一。弟の竜二はパソコンを使って仕事をしていた。

 その仕事も、正確に言えば仕事に使っていた仕組みもセンスオブワンダーを感じさせる、30年前では考えもつかないものだった。

 

 第5話 「リモートワークはSF」

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