TVの進歩ぶりにひとしきり感心した後、竜一はキッチンへとやってきた。部屋自体は全体的に見て昔とほぼ変わらなかったが冷蔵庫やガスコンロなどは新しい物に変わっていた。
「換気扇は変わらないなー。電子レンジは……。へー、これが30年後の電子レンジかー。
何かテレビのリモコンみたいにごちゃごちゃボタンばっかりだなー。俺の頃は時間を指定するつまみしかなくてそれをひねってチンしてたよ」
「うん。最近の電子レンジは便利で煮物や焼き物も作れるし、揚げ物だって作れるよ。ご飯作りに結構役立ってるわ」
竜二の妻、咲夜がごく当たり前にさらりと言ってのける。
「え? 煮物ならまだわかるけど焼き物とか揚げ物は電子レンジじゃ無理でしょ?」
電子レンジは食べ物の中の水分子を振動させて温めるものだ。だから理論上では煮る事は出来ても焼いたり揚げたりはできないはず。
竜一は春になれば高校2年生に上がれたはずの身分であったが、それくらいは知っていた。
「オーブンレンジって言って最近の電子レンジはオーブンみたいに高温で焼くこともできるの。今夜は鶏のから揚げとチャーハンだから試しにやってみようかしら?」
そう言って彼女は衣をつけた揚げる前の鶏肉を電子レンジに入れてボタンをいくつか押して操作する。ピッ、ピッ、というボタンを押した音が何個か聞こえた後、調理が始まる。
しばらくして……「チーン」という電子音が鳴り、調理が終わる。
咲夜がレンジを開けると鶏のから揚げはまるで揚げ立てのようにブツブツと音を立てていた。また、開けた瞬間から揚げ物特有のいい香りが漂ってくる。
一口頬張ると外はサクサク、カリカリした衣の歯ごたえと、中はじんわりと柔らかいジューシーな肉の感触が口の中に広がる。
その食感は言われなければ油で揚げていないとは気づかない、本物のから揚げと全く変わらなかった。
「ス、スゲェ。きちんと揚げ物になってる。衣がサックサクだわ。もう少し頑張ればSFみたいにボタンを押しただけで料理が出て来るとかも出来るかも?」
「ふふっ。そうかもね」
彼女は優しくそう言う。夫の兄である竜一の話は何度か竜二から聞いていて、そこでは無類のSF好きだと聞いていたがその通りの風体で彼らしいとは思ってはいた。
「チャーハンは冷凍食品かー。30年後の冷凍食品って少しは進歩してるかな?」
チャーハンは出来合いものか……まぁ唐揚げは手作りだからいいか、とは思ったものの口にはしない。16歳の未成年とはいえそれくらいのことはできる。
彼女はパラパラとはしていたが凍ったままのチャーハンを器に盛り付け、電子レンジに入れて再び作動させる。
しばらくして……「チーン」という電子音が鳴り、調理が終わる。
「試しに食べてみる? ちょっと多めに解凍したから食べても平気よ」
咲夜から勧められたのもあって竜一は言われるがままにチャーハンに手を付ける。町中華の店で食べたチャーハンのようにパラパラとして、味も格段に良かった。
出前で町の中華屋から取り寄せたチャーハン。と言われてもおかしくないほどの出来だった。作る工程を見られなければ、とても冷凍食品とは思えない位美味い。
「……!! これ本当に冷凍食品か!? レンジに入れてるところを見られなければ手作り、それも町中華が作ったって言えるレベルだぞ!?
スゲェ! さすが30年後の未来は違うなー。にしても家庭でこんな味のチャーハンが食えるって事は町中華も大変だなー」
竜一が咲夜と話をしていた時、玄関を開ける音が聞こえてきた。
「ただいまー」
「おお、竜也。お帰り」
竜二が出迎えたのは彼に、そして竜一にもよく似た16歳の青年だった。今日は日曜日、友達と遊びに出かけていたのだ。
「? オヤジ、この人誰? なんか顔が俺や若いころのオヤジに似てるんだけど」
竜也は、自分によく似ている顔をした青年を指さして父親に問う。
「信じてくれるかどうか怪しいが、俺の兄貴の竜一っていうんだ。お前からしたら伯父ってとこかな」
「ええ!? 伯父さん!? ……にしちゃあ、ずいぶんと若いな。どう見ても俺と同じくらいの年だぜ?」
「まぁそれは色々あってだな……後で説明するよ」
「へー。竜二、お前の息子か。まぁいるとは思ってたけどな。確か竜也って言ったっけ? 1人だけか?」
「ああ、子供は竜也だけだ。じゃあ夕食にしようか」
そう言って門河家は突然の来訪者と一緒に夕食をとることになった。
【次回予告】
30年前の世界からやってきた竜一。とっくの昔に抹消された戸籍に代わる新しいものを作るために竜二の嫁である咲夜と一緒に車で出かけることになった。
そこでも想像を絶するものが待っていた。
第4話 「カーナビはSF」
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