「うわっ! ス、スゲェ!」
自宅の1階にある居間でスマホをいじっていた竜一がそれを見ると声を上げる。
そばにいた竜也は「どうした?」と声をかけたところ、おなじみのSFトークが始まった。
「竜也! これを見てくれ! ついにパワードスーツが実用化されているそうだぞ! しかも電気が要らないそうだ!」
竜一のスマホには彼がテンションぶち上がり状態になったきっかけのとある会社の製品紹介ページが映っていた。
パワードスーツ……それは日本では一般的な「パワードスーツ」という単語よりもより厳密に言えば「強化外骨格」と訳した方が正確な意味になるもの。
人間の動き、例えば物を運んだり荷物をもって歩いたりするのを「サポート」あるいは「強化」して生身では到底持てない重いものを扱えるように身体に装着するSF出身の装備だ。
映画ではエイリアン2に出てきたものが「作業用」で軍事用ではないとはいえ、代表的なパワードスーツの一種であるとされている。
竜一が見ていたのはそれが既に実用化されて販売もされているページだ。
しかも「バネの力を動力源として作動するので電気を使わず、バッテリーや電源ケーブルが要らない」というのも革新的なものだ。
「スゲェだろ!? あのパワードスーツがついに実用化されたんだぜ!? しかも電気の力を使わないと来たもんだ!
それに電気を使う本格的な軍用パワードスーツもアメリカなんかで開発中だそうだ! またSFの光景が現実になろうとしてるのは本当にスゲェだろ!?」
「は、はぁ。そうなのか……」
大興奮状態の竜一に対し、竜也の反応は冷ややかなものだ。どこがそんなに凄いことなのか、全く理解できなかった。
「オイオイ「そんなこと言われてもどう受け答えしていいか困る」って言いたげな表情するなよ。
パワードスーツだぜ? あのパワードスーツが現実のものになろうとしてるなんてスゲェ以外に無いだろ?」
「伯父さん、すまない。俺はSFの知識はそこまである方じゃないんだ。せいぜいがスターウォーズ止まりで本格的なSF知識は無いんだ。
今まで伯父さんが驚いた事に関してはSFマニアじゃなくても分かる事だから何とかついてこれたけど……それにSFに関してだったら竜二の方が詳しいと思うし」
「うーむ……そう言われるのは心外だな」
今まで家族は竜一のSFトークにそれなりについてこれていたのだが、ここにきて急なトーンダウンだ。
「俺はオヤジからSFに関する話は一切聞いてないし、俺もSFには興味ないからなぁ。
せいぜい伯父さんが昔生きていた頃、オヤジは散々SFを見せられたと愚痴ってたぐらいしか話してくれなかったなぁ」
「そうか、そういう事か……」
「ところで、その「パワードスーツ」って言ったっけ? 人間が乗りこむタイプのロボットとは違うものなの?」
竜也は話題や雰囲気を変えようと話を振る。幸い竜一は食いついてきた。
「全くもって別物だよ。ロボットは「操縦」するものだが、パワードスーツは「人間の動きに合わせて動く」から操縦する必要が無いんだ。
操縦席があるかないかがロボットとパワードスーツの大きな違いだと俺は思うぞ」
「ふーん、そういうものか。昔「全部同じじゃないですか」っていうのが流行ったけどそれに出てきそうだなぁ」
「まぁSFやロボ物に詳しくないって言うのなら似たようなものに見えるってのは仕方ないな。その辺は分かってるつもりだよ。
中にはその違いが分からない奴にキレる奴もいるけどそれはそいつが短気なだけでSFファン全員がそうではないからな。そういうのはどの集団にも必ずいる連中だよ」
TVのニュースで取り上げられる悪質な撮り鉄が代表格である、マナーの悪いファン。野球ファンやサッカーファンにも一定数は必ず混じるそれはSFにもいるという話だ。
竜也は彼の話を聞きながらスマホを操作する。
「へー。これが伯父さんの言ってたパワードスーツか……アシストスーツって奴だね。値段は10万円くらいか」
「ああ。10万円でパワードスーツが買えるなんて価格破壊だよなぁ。就職した時にまだ売ってたら記念に初任給で買おうかな」
「記念って……まず使い道を探そうよ」
パワードスーツに向かって「とりあえず記念に買おう」と言う竜一に竜也は大いに呆れたという。
【次回予告】
最近ではドローンなるものが流行っているらしい。
竜一にとっては「ラジコンみたいなもの」であって今一つセンスオブワンダーを感じさせるものではなかったのだが……。
第53話 「ドローンはSF」
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