「う~ん……」
竜一はスマホでダウンロードした、スマホのゲームとしては珍しい買い切りのRPGを遊んでいたのだが、謎が解けずに悩んでいた。
このゲームは大別すればRPGに属するものの、実際にはむしろ謎解きがメインのゲームであった。タイトル名やタイトル画面からは想像もできない程難しいもので、彼はすっかりお手上げ状態だった。
「伯父さんどうしたの? そんな難しい顔して」
そろそろ夕食の時間だからと竜一に伝えるためにやってきた甥の竜也が険しい顔をしていた竜一の事が気になった。
「ああ、このゲームの謎解きがどうしても出来なくて先に進めないんだよ」
「ふーん。じゃあ攻略wikiを見れば載ってるかもよ」
「何だ? その攻略wiki、とか言ったものは?」
「ああそうか。伯父さんは知らないかぁ、分かった教えるよ」
竜也は竜一に対してwikiの解説をしだした。
そもそもwikiというのは「不特定多数のユーザーがブラウザで編集できるウェブサイトやそのシステム全般」を利用して、個々人の情報を1つにまとめた「集合知」的なサイトだ。
そのwikiシステムを使った攻略サイト。それが攻略wikiだ。
ざっくりまとめればそういう意味になる説明を竜也から聞いた竜一はとても感心していた。
「へぇ。令和の時代にはもうそんなものがあるのかー。で、利用料金はいくらするんだ?」
「おカネは要らないよ。タダで利用できるよ」
タダで攻略情報が分かる。と聞いて竜一は衝撃を受ける。
「!? な、何ぃ!? それもタダなのか!? 攻略情報を見るのにお金が要らないなんてスゲェなぁ! って事はもう攻略本なんていらないんじゃないのか?」
「昔と比べればだいぶ減ったとは聞いてるけど。何せ更新速度と頻度では紙の本とは比べ物にならない位だからね」
竜一はスマホで検索すると、大して苦労もせずにそのゲームの攻略wikiサイトへとたどり着いた。
そこには竜一が現時点で詰まっている場所はもちろん、それ以降に設けられた謎解きの答えが全て載っていた。
「……スゲェ。攻略情報が全部載ってるぜ。これじゃ攻略本が売れなくなるのも分かるわ……残念だなぁ」
「……残念? 残念ってどういう事? 何かあったの?」
攻略本が売れそうにないことを思って「残念」と言った竜一に竜也は「どこが残念なのか」聞いてくる。
「ああ、昔はRPGに出てくる武器や防具は「名前と装備効果だけ」で、どんな形をしてるのか想像するしかなかったんだけど、
攻略本ではそこがイラストになって出てきたんだ。それを見て「主人公たちはこれを装備して冒険してたんだなぁ」って想像するのが楽しかったんだけどそれが無くなるのはちょっと寂しいなぁ」
昔のゲームの描画力が弱かった時代とは違い、現在では新たな武器や防具を装備したら操作キャラのグラフィックが変わるゲームも少なくないため、そういう意味でも攻略本のイラストのパワーは弱くなっている。
「へぇそうなんだ」
竜也からしたら「平成の頃にあった過去の遺産か」と思うような内容だった。
何せ竜也が産まれたころには既にインターネットが存在し、物心ついた時にはスマホがあって、電話する真似をする際にはバナナではなく板チョコを使っているという時代だ。
竜一の話が分からないのも、無理はない。
「今の攻略本には開発者のロングインタビューが載ってることも多いからそれ目当てで買ったこともあったなぁ。どこにしまったのか覚えてないけど」
「へぇ。編集部も苦労してるんだなぁ」
「おーい! 兄貴、竜也、どうしたんだー?」
そこへ竜二の野太い声が下の階から聞こえてくる。
「あ、そうだ。夕食が出来たからって伝えるために来たんだっけ」
「ああ、夕食か。分かった、行こうか」
すっかり目的を忘れていた竜也は、竜一と一緒に1階へと降りて行った。
【次回予告】
「牛は10ケタ! 人間は16ケタ!」国民を数字で管理する方針を固めたとたん飛んできたヤジだ。
だが現在では生活にある程度は普及しているらしい。日本はディストピア社会として舵を切ったそうだが徹底されてはないらしい。
第39話 「マイナンバーはSF」
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