夏休み期間中の昼間、竜一と竜也は友人2人と一緒に近所のコンビニでカップ麺を買ってお湯を入れ、そこからほど近い場所にあるスーパーのイートインスペースでたむろしていた。
本当ならやってはいけない事なのだが、近くのコンビニにはイートインスペースが無いし、路上は暑くてかなわんという事で仕方のないことだ。
「この味は変わらないなー。昔もっとガキだったころに家族で出かけた時にも食ったけどスゲェ美味かったなー」
昔を懐かしみながら、竜一は王道であるしょうゆ味のカップ麺をすすっていた。
カップ麺やポテトチップスなどに代表される加工食品は少しずつ改良を重ねており、今のが最もおいしいと言えるように微調整されているそうだ。
「2023年の4月ごろ」に「30年ぶりに」食べたカップ麺はずいぶんと味が変わっていたが、すぐに慣れたし今の方が確かに美味かった。
「それにしてもカップ麺って新参者の入る余地ってあるのかな? もう完全にやりつくされて割り込む余裕も無いんじゃないのか?」
「いや、そうでもないぞ。麺・神とかは麵にこだわってて美味いと思うぞ。竜一、食ってみるか?」
竜一と竜也共通の友人がそう言って自分がすすっていた麺・神なるカップ麺を差し出した。竜一は試しに箸先にちょこんと乗る程度を食べてみると……。
「!? 何だこれ!? 完全に店で出てくる麺だぞこれ!」
竜一が食べているカップ麺は「いかにもカップ麺」らしい本物とはまるで似つかない麺なのだが、麺・神なるカップ麺は
「とことん」こだわったそうでカップ麺の常識を覆すほどのもっちり食感を実現していた。まるでラーメン店で出てくる麺のようだ。
「スゲェなぁ! カップ麺もここまで来るとは思わなかったぜ! カップ麺でここまでの物を出せるんだったらラーメン店とか死活問題なんじゃないの?
店に行くよりも安くて気軽に買えるこれに流れる層もいると思うぞ。ヤベェなこれ」
「竜一、お前相変わらずいうことが大げさだなぁ」
30年後の世界にタイムスリップした。と言っていい竜一の驚き具合は「そういうキャラだから」という理由で定着しており「ちょっと変わった奴」という認識がクラス内に浸透していた。
「竜一、俺の分食わせてやったんだからお前の分もくれよ」
「ああ、そうだな。悪かったよ」
竜一が自分のカップ麺を差し出すと、友人は「ごっそり」持って行った。
「あ! テメェ! ずるいぞ!」
「悪いな! こいつは量が少なめなくせに高いんだ。これくらいとらないと割に合わないよ」
「クソッ。ツケにしとくからあとで返せよな」
竜一はごっそり持っていかれてほぼスープになった自分のカップ麺を見て残念がる。
「ところで、最近のカップ麺は豚骨にニンニクを利かせた奴が多いよな。流行ってるのか?」
竜也やもう一人の友人は「ニンニク豚骨味」を食べていた。
「ああ、最近は「家系ラーメン」っていうのが流行ってて豚骨しょうゆにニンニクを組み合わせたものが売れているんだ。食べてみる?」
竜也はそう言って竜一に自分のカップ麺を差し出した。試しに食べてみると……。
「へぇ。こういう味が受けるのか。ニンニクが入ると豚骨も結構マイルドになるんだな」
特有のクセがある豚骨しょうゆの濃い味が、ニンニクの風味で生臭さが中和された上に風味が足されてジャンキーではあるが「美味い」と言える味に仕上がっていた。
洗練された上品な味でない、いかにも素性の悪そうな味だがこれはこれで美味かった。
「カップ麺もまだまだ進歩の余地があるんだなぁ、スゲェな世の中まだまだ捨てたもんじゃないな」
「ハハッ。竜一らしいや」
竜一たちがスープを飲み干した時、険しい顔をしたスーパーのスタッフが一行の前に現れた。
「ここは当店でお買物されたお客様のためのスペースです! お買い物をなされていないお客様のご利用は固くお断りしております! 出て行ってくれませんか!?」
言葉遣いは丁寧だが荒々しい声で脅す様に竜一たちにそうぶつける。こうなったら従うほかない。竜一たちは追い出されるようにスーパーを出て行った。
【次回予告】
令和の時代においては「ゲームと繋がるフィギュア」なるものがあるらしい。
意外な組み合わせだが中には「ズル」ができるものもあるそうだ。
第46話 「フィギュアはSF」
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