旋風のルスト 〜逆境少女の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方国境戦記〜

美風慶伍
美風慶伍

路傍の話し合い

公開日時: 2021年7月31日(土) 21:10
文字数:2,034

 まずはじめに語りだしたのはプロアさんだった。


「正規軍の大佐から拘束を依頼されてたガロウズって奴のことだが」


 その言葉に私が尋ねる。


「どうなりましたか?」

「案の定だ、北のアルガルドの方へトンズラこいてる最中だったぜ。ルートはこことは別ルート。見つけ次第とっ捕まえて身動きできなくしておいたよ。正規軍の人達にも教えておいた。いずれ拘束されるだろうぜ」


 彼の語る〝身動きできなくしておいた〟というフレーズが恐ろしく気にかかるがあえて問いたださなかった。彼の言葉はまだ続いた。


「その時にやっこさんに少しばかり尋問したんだが、事件の黒幕がアルガルド領主のデルカッツだと白状した。これまでの事件のシナリオを描いたのはデルカッツって奴でほぼ間違いないな」

「やはりそうでしたか。それで、それ以外には?」


 出来ればもっと具体的な情報が欲しい。そう思っていたがそこはそつのないプロアさんだ。抜かりはない。


「もちろん聞き出してある。デルカッツの居場所だ。アルガルド領に入ってから北西に向かい3シルド行ったところだ。念のため先行して現地確認もしてある」


 お見事というほかはない。私もさらに尋ねた。


「それでその場所の名は?」

「〝ラインラント砦〟と言うらしいんだが聞いたことあるか?」


 デルカッツの潜伏場所の名を明かすと他の人達にも思い当たることがないか尋ねていく。

 それと声を発したのは意外にもゴアズさんだった。


「その名前でしたら記憶があります」


 その声に思わず皆の視線が集まる。


「かつて国境警備部隊に所属していたのですが、その兼ね合いから主だった駐屯施設や哨戒基地の名前や場所はほぼ把握しています。かつてそのような名前の駐屯施設があったと聞いたことがあります」


 ゴアズさんの語る言葉に皆が聞き入っていた。


「かつてアルガルドのある辺りは国境線がもう少し東へと押されている状態でした。その際に当時の国境線に合わせて国境警備の拠点施設となる砦が建てられていたと言います」


 フェンデリオルとトルネデアス、その長い戦いの中で国境線は一進一退を続けている。今の国境よりも奥の方へと一時的に下がっていた時期があったというのは軍隊筋では割と有名な話だ。


「ところがです。それがさらなる戦況の変化でフェンデリオル側が国境線を押し戻した。そのため比較的山奥で地形的にも不利なラインラント砦は廃砦となり、さらにはさまざまな人手を経由して、最終的に一人の候族の持ち物として売却されたと聞いています」


 ドルスさんが問う。


「その人物ってやつがデルカッツってわけだ」

「おそらくそうでしょう」


 ゴアズさんが頷く。


「仮にも軍事駐屯基地として作られた砦です。個人の持ち物となったことで多少の改築はあるかもしれませんが、堅牢であり正面から向かう以外に侵入ルートは無いはずです」


 カークさんが言う。


「正攻法で行くしかないってわけだ」

「はい。迂回や裏口からの侵入は困難なはずです」


 だが私はそこに言葉を挟んだ。


「ですが今のラインラントに立てこもっているのは正規軍人ではありません。おそらくはデルカッツが個人的に集めた私兵集団でしょう」


 私は皆の顔を1人1人見つめながら告げた。


「私たち一人一人が、その持てる力を十二分に発揮できたなら制圧は不可能ではないはずです。各自、それぞれの得意分野を活かしてください。それに候族の私兵保有は国家法でも厳重に禁じられてる重罪です。不当に武装している私兵集団であると判断でき次第、強制排除をして構いません。全ての武装の使用を許可します」


 私は明確に判断基準を口にした。ここははっきりしておかねば、いざという時に判断を誤るものになるからだ。


「デルカッツの逃亡だけは絶対に阻止しなければなりません。今ここで逃せば、奴は間違いなく地下へと潜るでしょう。そしてさらに悪しき企みを続けるに違いありません」


 私の言葉に皆が頷いてくれている。

 ドルスさんが言う。


「あぁ、その通りだ」


 パックさんも言う。


「これ以上の不幸の連鎖は断たねばなりません」


 ダルムさんも告げる。


「アルセラ嬢ちゃんみたいな悲劇はもうごめんだからな」


 そして私も皆へと告げた。


「行きましょう。決着をつけるために」


 これ以上の不幸の連鎖だけは生み出してはならない。ワルアイユの人々のみならず、デルカッツのもたらした邪な野望に目がくらみ戦場へと駆り出されてしまったトルネデアスの人々もデルカッツたちの犠牲者なのだ。

 二つの国の間に〝戦争〟と言う拭いさりようのない深い爪痕をもたらしたのは事実なのだ。

 休息は終わった。私たちは意を決して立ち上がる。


「出発しましょう。目的地は旧ラインラント砦」

「了解」

「了解です」

「了解しました」


 それぞれに声が上がり動き始める。馬を支度すると走り出す準備をする。私は先頭を切って声を上げる。


「出発!」


 馬の背に手綱でムチを入れると馬は速やかに走り出した。そしてプロアさんも、道案内をするかのように先んじて飛んでいく。

 私たちが向かう先にラインラントの砦が待っているのだ。


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