アルセラとリゾノと私、3人で急ぎ、礼拝堂を後にする。そして物陰を使いながら役場の建物へと脇扉から入っていく。
その村役場の一階奥の執務事務室――広く作られた場所にて待機していたのはワルアイユ家に仕える侍女たちと、村の青年団の若い女性たち。さらにはバロンとパックや執事のオルデアさんの姿も見える。
女性たちはいずれも野戦用防衣を兼ねた厚手のジャンパースカートや行軍用ワンピースを身に着けている。さらにブーツにハーフマントと万全の体制で備えていた。
森林火災を消化するために向かった男性たちの帰る場所を守るためにも、ここで待機してくれていた。そんな彼女たちの所に私達が足早に駆け込んで来た事でにわかに緊張が走った。
「領主様?」
「ルスト隊長?」
「どうなさいました?」
侍女長のザエノリアさんも居る。侍女長として場の者たちの意見を取りまとめるのになれている彼女が率先して問うてきた。
「何かあったのですか?」
その言葉に査察部隊のバロンさんもパックさんも、じっと私の方を見ている。
「敵襲です。暗所や物陰を利用して接近しつつあります。すぐに戦闘準備が必要です」
私はさらにリゾノさんやザエノリアさんにも問いかけた。
「今、ここに集まっている人たちは市民義勇兵として戦うことは可能ですか?」
リゾノさんが言う。
「はい、村の女性たちは基本的に弓兵として訓練を受けています。護身用に戦杖での白兵戦闘訓練も受けています。その他、精術通信師として資格を持っている者は7名ほど」
「装備は?」
「すでに用意してあります」
弓兵か――、近接戦闘は本当に護身用だろう。本来は男性の市民義勇兵と連携して行動するのだろうが、よもや女性たちだけになるとは想定していなかったに違いない。ならば――
「分かりました。みなさんはこの役場内に立てこもってください。緊急用の退路を確保しつつ、ご領主のアルセラ様を守ることに専念してください」
「はい。分かりました」
「それから――」
私はさらにバロンさんとパックさんに告げる。
「バルバロン2級は役場建物の屋上や礼拝堂の屋根から狙撃をお願いします」
狙撃――その言葉にバロンさんの表情が引き締まる。
「了解。直ちに準備いたします」
そう答えながら背中に抱えた背嚢をおろして装備の準備をする。愛用している折りたたみ式の弓を組み立てるためだ。
「お願いします。それからランパック3級」
「はい」
「表に出て、潜んでいる襲撃者を〝私ととも〟に迎撃してください」
その言葉にパックさんは武術家としての礼儀である抱拳礼と言う挨拶を示した。左の拳を右掌で包むようにする作法の挨拶、パックさんは本気で武を行使するときにはこの挨拶を行う。
「拝命、承りました」
そして最後にアルセラの執事のオルデアさんが控えていた。普段は執事としてアルセラさんの身の回りの事をこなしているはずだ。だが、今の彼は左腰に一振りの牙剣を下げている。私は問うた。
「オルデアさん。戦闘経験は?」
「恥ずかしながら、これでも職業傭兵の経験があります。護衛程度の事はなんとか」
その言葉にはある種の謙遜があったが、職業傭兵に限らず兵士も義勇兵も、戦闘に関わる人々はその立ち振舞に経験の程度がにじみ出るものだ。オルデアさんの居住まいと立ち姿に確かな経験を私は感じ取った。
「では、アルセラさんをくれぐれもお願いいたします」
「承知いたしました」
そして私はさらに告げる。
「屋外に警戒任務をしている少年たちがいましたね?」
リゾノさんが言う。
「はい。何人か」
「呼び戻してください。巻き込まれるおそれがあります」
「わかりました――」
そしてリゾノさんが傍らの若い女性に命じる。
「礼拝堂の鐘塔の時計の鐘を鳴らしてください。短く3回」
「はい――」
そうやり取りをかわして速やかに出ていく。おそらくは戦闘状態における連絡法の一つだろう。普段の義勇兵としての鍛錬の中で連絡方法などについても決められているのだろう。
「ではお願いします」
私は右腰に下げている戦杖を抜いて握りしめながらそう告げた。皆の声を代表するようにアルセラの声が聞こえた。
「ルスト隊長――ご武運を」
軽く背後を向いてうなずき返すと、私はパックさんを伴って外へと駆け出したのだった。
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