旋風のルスト 〜逆境少女の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方国境戦記〜

美風慶伍
美風慶伍

ルストと、その〝仲間たち〟

公開日時: 2021年11月3日(水) 21:10
文字数:3,053

 私たちは演説舞台となった礼拝神殿入口前へと戻ってきた。

 途中、村の人々などと挨拶を交わしながら歩いてくる。

 そして、そこで私たちを待っていたのは私の仲間たちだった。

 この10日ほどの日々をともに過ごし、困難を乗り越えてきた大切な大切な仲間たちだった。

 

 まずは、忍び笑いのプロア――こと【ルプロア・バーカック】

 

「お、やっと一通り回り終えてきたんだな」


 頭に巻いたバンダナと口元を隠すように巻いたマフラーがトレードマークの斥候役、ひねくれて冷めた態度が鼻についていたが、根は紳士で悪党を容赦しない熱い男だった。彼の持っている精術武具の特性に漬け込んで無理を言い放題だったことについては実はちょっ反省している。


 次いで、弔いゴアズ――こと【ガルゴアズ・ダンロック】

 

「お疲れさまです。ルスト隊長」


 穏やかな人柄の長身の地味顔系、しかし、その体は歴戦の痛手とその愛用武器の反動で傷だらけ。もう少しは自分を気遣ってほしいのだけど。でも、常に命を守ることに取り憑かれるように戦う不屈の人だ。いつか自分自身を燃やし尽くしそうで正直不安だ。

 

 その次が、一本道のバロン――こと【バルバロン・カルクロッサ】

 

「アルセラ様もご苦労さまです。お疲れでしょう」

 

 黒髪の長髪が目立つ憂い顔の美丈夫、普段はキャソックと呼ばれる外衣を身に着けているが、その下は屈強な筋肉の持ち主で、いかなる目標も確実に仕留める弓狙撃手。彼の矢が私たちの道を何度も切り開いてくれた。自らが手をかけた奥さんのことに苦しんでいたけど今なら自らの過去と向き合えるだろう。

 

 さらに、雷神カーク――こと【ダルカーク・ゲーセット】


「こう言う祝賀会はとにかく気疲れするからな」


 分厚い筋肉と硬い拳を持つ白兵格闘戦闘の猛者で、私たちの部隊の主力となる人だ。義に篤く、嘘や卑劣を嫌い、常に誠実であろうとする生粋の軍人肌の人。私を隊長として一番尊重してくれた人だった。ダルムさんと並んで、私の精神的柱になってくれた人だった。本当にありがたかった。


 その次が、絶掌のパック――こと【ランパック・オーフリー】


「しかし、これでアルセラ殿のお父上気味も草葉の陰で安堵してらっしゃるでしょう」


 黄色い素肌に漆黒の黒髪の痩身痩躯の戦士。いかなる戦いをも素手で切り抜ける、白兵戦闘武術の達人。飄々とした人柄で無私無欲なひたすらにストイックな性格だった。その剛拳は私たちの窮地を切り開いてくれた。願わくば彼に本当に自由が与えられることを思うばかりだ。


 さらに控えているのが、鉄車輪ダルムこと――、【ギダルム・ジーバス】


「そうだな。バルワラのやつの命を救ってやれなかったのは心残りだが、このワルアイユを担う者を導いてやれたのは大きな成果だ」


 今年で59になる現役の職業傭兵としては最高齢、老いてなお巨大なハンマー型の武器である戦鎚を振るいながら戦場に立ち続ける古強者。そしてあらゆる物事に達観しその豊富な機知で私を支えてくれた有能な参謀役。そして私の師匠。本当にありがとう。彼のことをおじいちゃん扱いしないのは、私なりの礼儀だ。


 最後に控えていたのが、ぼやきのドルスこと――、【ルドルス・ノートン】


「これで胸を張って堂々と帰れるな。なぁ、ルスト隊長?」


 少ししおれた雰囲気の中年男。皮肉と、ぼやきと、だらけた空気が鼻をつくが、その実、達観した視点の持ち主であり、いかなる状況でもマイペースを貫く姿が私には心地よかった。初めは私と対立していたが後に和解。さらにはその優れた戦闘技術は戦場で遺憾なく発揮されていた。


「みんな」


 私の問いかけにみんなが集まって輪ができる。その輪の中にはアルセラも居た。

 私は皆に告げる。

 

「みんな、お疲れ様」

「何言ってんだよ」


 ねぎらいの言葉をかけた私にドルスが言い返してくる。

 

「一番疲れてるのはどう考えたってお前だろう? ルスト」


 それに続けたのはゴアズさん。


「そうですよ。今回の一件で戦いの矢面に立ったのは間違いなく隊長なんですから」

「でも、成り行きと意地でなった隊長ですけどね」


 私は苦笑しつつ答える。そして、ひとりひとりの顔を眺めながら言葉を続けた。

 

「ブレンデッドで哨戒行軍任務の小隊長に書類不備から成り行きで抜擢されて実績を積んだのに、その後に今度の査察任務では外されてしまった。それをどうしても納得できなくて隊長をやらせてくれと乗り込んだのが、今回の事件に首を突っ込むきっかけだったんですよね」


 するとバロンさんが落ち着いた声で言った。

 

「でも、それがあったからこそ今回の勝利があるんです」


 彼は言葉を続ける。

 

「今回の事件の黒幕にとって、彼らが描いたシナリオになかった存在、それがルスト隊長だったはずです。それを初手の段階で〝どうせ経験の浅い小娘〟と軽んじて存在を黙認してしまった。それが敵の企みにとって致命傷だった」


 ダルムさんが言う。

 

「そうだな、ルスト嬢ちゃんの存在が様々な予想外の事態を引き起こしたんだ。そういや闇夜の襲撃もあったな。あれを撃退したのはルスト隊長だ。不用意に襲撃をした事で裏から介入している第3者の存在を匂わせる結果になっちまった」


 さらにドルスがアルセラに視線をなげつつ言葉を選んで告げる。

 

「新領主となられたアルセラ様のお父上の死を、突然死ではなく不審死としてさらには密殺であるとの判断と答えを引き出したのは隊長の指揮あってのものだ。そして、その後の彼女の立ち直りにも隊長の力があった」

 

 いつになく真面目なドルスの言葉にアルセラは神妙な顔で頷いていた。


「はい、突然の父の死にどうすればいいか解らなくなっていた私を、励まし叱咤し立ち上がらせてくれたのは間違いなくルストお姉さまあっての事です。あの時、悲しみに沈んだままだったらお父様亡き後のワルアイユをあそこまでまとめられたかどうか、正直自信はありません」

「そうだな」


 さらにダルムさんも言った。


「さらにその後の、あの偽軍人のゲオルグの正体の喝破に、森林放火に強行襲撃、雪崩を打つように畳み掛ける事態を適切に切り抜けていったのはルストの采配あってのものだ。あそこで判断を一つでも間違えていたら、この祝勝会にあつまった顔ぶれは違ったものになっていただろうな」


 次にカークさんの声がする。


「そして、ワルアイユの市民義勇兵をまとめ上げ西方平原への脱出、予想外の秘策を使っての追撃部隊の糾合、さらにはトルネデアスの戦略を見抜いての対策――、元軍人である俺の目から見ても見事というのほかはない。あの戦象を撃破したのが戦局決定の決め手になったのは間違いないな。それを成功させたのはパック、お前さんだったな」


 カークさんの問いかけにパックさんは頷きつつ言った。

 

「えぇ、ですが武功は隊長あってのもの。隊長が私を奮い立たせ、戦う機会を作ってくれたからこそ、あの勝利をもぎ取ることができたのです」


 ゴアズさんが言う。


「私たちはそれぞれに重い過去に縛られていました」


 バロンさんが言う。


「私は言うに及ばず、皆一人一人が過去という名の見えない鎖に身動きが取れなくなっていた。ですが、それを解き放つために何を成すべきか? 指針を示してくださったのは――ルスト隊長あなたです」


 そしてプロアの言葉が漏れる。

 

「ここでその一つ一つを丁寧に指折り数えて上げるような無粋な真似はしねえ。ただ、俺達があんたに言えることがあるとするならたった一つだ」


 彼のその言葉が皆の気持ちを一つに合わせた。そして、7人の仲間たちは一斉にこう告げたのだ。


「ありがとう。隊長」


 それはみんなの嘘偽りのない本当の気持ちだった。


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