次なる戦場となったのは、ラインラント砦の城主執務室、本来ならばデルカッツが政務に勤しんでいるはずの場所だった。
だがそこにデルカッツは居ない。居たのは――
「おとなしく貴様の二つ名を渡せ!」
アルガルド家副官〝ハイラルド・ゲルセン〟と、
「鉄車輪の名はくれてやれねえなぁ。亡き主人からの賜り物だからな」
ルストの部隊の職業傭兵の一人〝ギダルム・ジーバス〟だった。
互いに拭いようのない因縁を持つ二人は、似たような形状の武器を所持していた。
両手持ちの打撃武器、一般に〝戦鎚〟と呼ばれる物だ。
いわゆる大型ハンマー型の白兵用武器、当たれば威力はでかいが戦場で効果的に用いるには高度な技術と卓越した戦闘センスが要求される代物だった。
痩せて枯れたような風貌のいかにも神経質そうな長身の人物がハイラルド・ゲルセン、それと対峙する初老の白髪姿の男性がギダルム・ジーバス。
特にギダルムは職業傭兵としてこう呼ばれていた、
――鉄車輪ダルム――
それが彼の二つ名だ。
ハイラルドが言う。
「お前とはよくよく因縁があるらしいな」
その言葉にはハイラルドのダルムへの徹底した嫌悪感が滲み出ていた。だがそれはダルムも同じだった。
「ふざけんじゃねえよ、お前なんかとの因縁なんか金もらったって願い下げだよ」
まさに〝吐き捨てる〟という表現に相応しいその言い回しはダルムがハイラルドに抱いている本心そのものに他ならない。
またそれだけの思いを抱くだけの理由がダルムにはあった。
「忘れたとは言わさねえぞ、今回のバルワラのみならず俺のかつての主人〝ダブリオ・ローレム〟を死に追いやったのは実質お前なんだからな」
だがハイラルドはダルムの言葉を鼻で笑う。
「何を言い出すかと思えば! 貴様まだそんなカビの生えた話を引きずっているのか」
「カビが生えて結構、家臣が主人に忠義を尽くすのはどこの世の中でも同じだよ。俺にとっての主人とはダブリオ候ただ一人なんだよ」
「喚いてろ老いぼれ! この世はあらゆる場所が戦場だ。負けた人間が死ぬのは道理というもの! 死んだ奴が悪いのだよ」
ハイラルドが吐いたその言葉をダルムは無言で返した。かすかな沈黙の後にダルムは吐き捨てる。
「やっぱりお前とは会話するだけ無駄だぜ」
そう告げて両手で構えた戦鎚を振り回す。
――ブオッ!――
対するハイラルドもダルムの言葉を鼻で笑った。
「それだけは同感だ」
ダルムは否定の同意もしなかった。ただ一言――
「死ね」
ハイラルドが返す。
「お前がな」
二人の因縁は20年越しだった。
そして今、この場において決着の時を迎えようとしていた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!