この言葉が決め手となったのだろう、疑惑を騒いでいた者たちは完全に沈黙してしまう。そして、タイミングを合わせるかのようにアルセラが宣言した。
「皆さん。今は混乱を鎮める事を優先してください。今、何をなすべきかは、考えずともわかるはずです!」
否定する声は上がらない。頷きそして同意する声が次々に上がる。
「心得ました」
「肝に銘じておきます」
さらにはあの騒動の元になっていた若者たちも詫びの言葉を口にしていた。
「申しわけ、ありません」
「すいませんでした」
彼らも根は悪い人たちではない。誤りに自ら気づけばすぐに納得してくれる。
とはいえ忍耐を強要するだけでは無理がある。心の余裕を与える意味でも、私は一つのある基準を明示することにした。
「詳細は明かせませんが、今私の方で特別な解決手段を講じています。それが結論がでるまで〝2日〟――明後日まで耐えてください」
「2日?」
戸惑いの声が漏れたが、具体的な数字が出たことでその場を支配していた空気が明らかに変わった。さらにはアルセラが後押しをしてくれた。
「辛いとは思いますが、今少しです! 見えない敵の思惑に惑わされず、ワルアイユ領の全員で一致協力してください!」
事ここに至っては異論を唱える者はいなかった。若者たちのリーダーと思わしき者が進み出るとアルセラと私へとこう答えた。
「わかりました。その言葉に従います」
結論は出た。メルゼム村長が皆に命じた。
「結論は出たな? 急いで山火事の鎮圧をしよう!」
「はいっ!」
そして燃え始める林を前にして彼は告げる。
「残念だが林を伐採しよう。村を類焼させるわけには行かない。よろしいですね?〝領主様〟」
「許可します。村民と領民の命が最優先です」
責任ある者としてアルセラが毅然とした態度で言う。
「火災から村を守ります! 木を切り倒し、火の広がりを防ぎます! 妨害が予想されるので、武器を用意してください! そして戦闘技能に疎いものは相互に助け合いながら村の守りを固め後方支援につとめてください!」
その采配は見事なものだった。朝方に涙を流して俯いていたのとは見違えるほど。それはまさに一人の領主として責任を背負うべきものの姿だった。
その言葉を受けて私も査察部隊の面々に命じた。
「火災鎮圧に協力してください。破壊消火となりますが、伐採する領域と伐採の際の倒木方向は、村民の方たちの指示に従うようにしてください。その際、妨害がおきる事も考えられます。この時点に至っては村民の方たちの生命を守る事を優先してください」
「了解」
「了解です」
「わかった」
めいめいに声が返ってくる。それと同時に速やかに動き出す。
そして残る一人であるパックさんにも別任務を指示した。
「ランパック3級は村の人たちの怪我の治療などをお願いします」
「心得ました」
パックさんは私の指示に了解しつつも、その表情には騒動の中心が自分であることへの〝詫び〟のような思いが垣間見えていた。冷静さを装っていたが噛み締めた口元に悔恨の念が浮かんでるのがわかる。
彼は絶対に悪しきを行えない人なのだ。
連携を始めた村民たちとルスト率いる部隊員たちの姿を見ながらアルセラが、私へと問いかけてきた。
「ルスト隊長、これで解決に向かうのでしょうか?」
「わかりません。ですが敵が最終的に何を狙っているのか、おぼろげながら分かったような気がします」
「それは?」
答えにくい事実だったが覚悟を求める意味でも伝えるしかなかった。
私はアルセラの瞳をじっと見つめながら告げた。
「最悪、この村から離れる事になるかもしれません」
その言葉にアルセラはすぐには答えを出せなかった。
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