レミチカの言葉は続く。
「ですが、これは氷山の一角に過ぎません。掘り起こせばまだまだ出てきますわよ?」
呆然とした顔のデライガに向けて鋭い言葉は続く。
「あなた、西方辺境のワルアイユ領の祝勝会にも妨害行動を行いましたわね?」
もはやここに至って否定の言葉すら出てこない。デライガはただただ愕然とするだけだ。
「西方辺境近くのいくつかの金融業者界隈から噂話を含む言質が取れましたの。すなわち『とある軍閥候族の当主の一人が、なりふり構わずワルアイユの祝勝会の妨害をしようとしている。放っておけば破滅するだろうが、くれぐれも巻き込まれないように気をつけよう』と」
悪意ある行動とは秘密が守られているからこそ意味がある。だがもはや秘密を守ろうとは誰もしていなかった。つまりは――
「『借財をネタにゆすりをかけられる被害者を探すことに協力を強要されるだろうから、何時でも厄介払いできるように差し障りのない証拠を別に押さえておこう』そう考える人々がいくつか居られたのです」
その言葉と同時にレミチカの従者であるロロは更なる資料を持ち出した。帳簿書類の抜粋である。
それを進行役に渡しながら言う。
「これは私どものところに〝善意〟で届けられた証拠物件の一部です。軍警察や官憲などに提出すれば、自らも被害を被ってしまいますが、私のような者たちか取り扱えば証拠提出した者への法的追及をかわすことが可能です。これも全て社会の裏表の経済市場を掌握している『経済候族』であるがゆえです」
レミチカは怒りをにじませながら、デライガに数歩歩み寄り見下ろしながら告げた。
「あなたのような武力に頼り切った軍閥候族には、私達のような経済や商業を中心とした経済候族は頼りなく、小銭稼ぎしかできない弱い存在に見えるのかもしれません。ですが!」
レミチカの鋭い叫びが響いた。
「あなた方が剣と弾丸で戦うのであれば、我々は金の力で戦うのです。この世の中は、人の体を血液が巡るかのように、お金が世の中という体を巡っています。それを見極め掌握することで我々は命をかけて戦っています!」
そこにはレミチカたち、商業で生きる者たちの根源的な思いが溢れていた。
「あなたは、武力に弱く軍への影響力の行使できない我々が、アルガルドの暴走を直接的に抑えることができないと軽視して、アルガルドの黒幕が我々であるとの噂を流布しましたね? そして、どんな批判にさらされても我々が沈黙せざるを得ないとタカをくくった」
だが、静かなる反撃は始まっていた。
「しかしそれが大きな過ちです。我々には我々の戦い方がある。時間はかかるがそれ相応の代償を支払えば、それ相応の出費を覚悟すれば、剣や弾丸よりもはるかに強力な影響力を行使できる。それが我々経済候族であるミルゼルドの渾身の一撃です。さてそれを踏まえた上で、私があなたに告げる最後の宣告です」
レミチカはなおも鋭くデライガを睨みつけていた。デライガもなおも納得しないかのように睨み返していたが、それも蒼白の表情へと変わる瞬間が訪れようとしていた。
レミチカの険しい表情が一瞬にして気高い笑みへと変った。大きく息を吸い込むと力強く唱えた。
「我々ミルゼルド家の名において、表社会と裏社会双方において、あなた個人の私有財産及び、地下銀行の口座のすべてを全凍結させていただきました」
そしてレミチカの傍らから現れた従者のロロが一枚の書面を広げて提示する。そこにはこう記されていた。
――財産差し押さえ執行承認書――
ロロの淡々とした語りが続く。
「これは今回の財産差し押さえと凍結に関する書類の一部です。これらはすべて然るべき代理人を通じてすでに執行済みです」
レミチカとロロ、ふたりの語る言葉が何を意味しているのか? 理解できない者はその場にはいなかった。ただただ驚きと愕然とした空気が漂っていたのだ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!