ラインラント砦の入り口城門を突破した後に存在していたのはエントランス広場。
そこでルストたち本隊を先に送らせて、留まった者が二人いた。
ぼやきのドルスと、一本道のバロンである。
彼らは敵の包囲の真っ只中に居た。
エントランス広場のホーム中央に、ドルスとバロンは背中合わせに佇んでいた。
周囲を警戒しながらドルスが言う。
「火ぃくれ」
シンプルな言葉、だがその意味はバロンにもしっかり伝わっていた。
「点火」
そう唱えるとバロンが左手に握り締めていた弓形の精術武具・べンヌの双角の先端に炎がともる。
ドルスの右手には二本の紙巻きタバコ。べンヌの双角に灯された火を使いタバコに火をつけるとすぐに咥えた。
ドルスが紙巻煙草を口にくわえるのは本気の合図だ。愛用する小型爆薬の導火線に点火するためだ。
その状態でドルスは言う。
「初弾をかわせ」
その言葉にバロンが反応したのをドルスは気配で察する。
「俺たちを狙っているのはおそらく先込め式のフリントロックライフルがほとんどだ。一発打てば次弾を装填するまで時間がかかる」
ドルスはもと砲科工兵だ。銃による攻撃への対処はお手の物だ。その意図がバロンにも伝わった。
「了解」
バロンも周囲を警戒している。その視線の先には無数の銃口。エントランス広場を取り囲むように、砦入り口の城門館とそこに通じる屋根付き廊下があるが、そこに多数の銃口がのぞいているのだ。
バロンが言う。
「連射できない分、数で勝負というわけですか」
ドルスが言う。
「正解だ」
そう答えた時だ。ついに敵が動く。
「来るぞ」
「ご武運を」
そう唱えた時、轟音が鳴り響いた。
――ドオンッ!――
轟音とともに二人は動く。
ドルスもバロンも、自らの右側の方へと側転するように飛び出した。敵から射撃を受けた場合、しゃがんだり後ろへ行くのはそのまま撃ってくれというようなものだ。この場合、右か左に移動するのが正解だ。
銃を構えている相手にとって左右に移動されると構えの姿勢が維持できないのだ。
ドルスは元砲科工兵だ。爆発物はもとより銃器類にも豊富な知識を有している。
バロンは狙撃手、撃つということに対して卓越しているのであれば、どうすれば撃たれないか? ということに対しても卓越していた。
そして、敵の弾から逃れるのみならず、すでに次の一手を打っていた。
ドルスは右へと逃れながら、自らの腰脇のボックスから導火線のついた小型爆薬の球体を四つ取り出す。そして口にくわえたタバコで点火すると、右手に握りしめていた片手用牙剣をラケットのように用いて小型爆薬打ち放つ。
――カンッ!――
甲高い音が響いて小型爆薬は散開するように飛んでいく。そして敵の撃ち手の潜んでる辺りを正確に吹き飛ばした。
――ドオオオン!――
親指先の大きさほどの小さな爆薬だったがそれでも一つあたりで一人を爆殺するには十分な威力だ。そんな四つ連なることでさらなる破壊力を発揮する。
「どうしたどうした! そんな豆鉄砲当たるかよ!」
そして更なる爆薬を取り出し打ち放つ。
――ドゴォン!――
敵が敵だ。軍規上のルールを守らなければならない敵国兵ではない。完全に違法な不法武装集団なのだ。一切の遠慮も配慮もドルスにない。
その光景を脇見でチラ見してバロンは苦笑する。
「まったく、城を壊す気ですか」
そう呟きながら彼も攻撃を開始した。
「精術駆動 ――双月炎舞――」
左手に握り締めた大弓・べンヌの双角、その弓なりの表面に沿うように炎が吹き上がる。
「はっ!」
気合一閃、べンヌの双角を振り回せば、三日月のような形に形成された高圧の炎が投射される。
――ブオッ!――
それはひとつだけではない。バロンは舞を舞うように連続してべンヌの双角を振り回す。
――ブオッ! ブオッ!――
飛んで行く炎の三日月は敵が潜んでいるはずの辺りにぶち当たり遮蔽物を破壊して爆散した。
爆薬と高圧の炎、その連続投射が立て続けに伏兵を吹き飛ばしてゆく。そこには一切の遠慮はなかった。
――ドオオオンッ!!――
「うあああっ!」
――ゴオオォォォン!――
「ぎゃあっ!」
爆音と悲鳴が交互にこだまする。敵の初弾の一斉掃射を躱しきれば、あとこちらからの攻撃し放題となる。
敵は法で禁止された〝私兵集団〟一切の遠慮は必要ないのだから。
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