そしてダルムさんにも言う。
「ギダルム準1級、補佐役よろしく頼むぞ」
「お任せください」
全ては決まった。私とドルスは空いている席へと腰を下ろす。
「全員が揃ったようなので始めよう」
正規軍人の彼が自己紹介を始める。革ケースに包まれていた軍人徽章を取り出し私たちに示しながら彼は名乗る。
胸についていた軍人徽章とは異なり14桁の数字が並んでいる。いわゆる識別番号というやつだ。
「フェンデリオル正規軍軍本部、第三作戦司令室から派遣されたゲオルグ・マーガム中尉だ。同行しているのはテラメノ通信師だ。彼女も本作戦に同行することになる」
名前を紹介されて一礼しながら彼女が名乗る。
「テラメノ・アンクリス通信師です。よろしくお願いします」
彼女が名乗ったの受けてゲオルグが言葉を続けた。
「それでは早速続ける。今回の任務についてだ」
会議室の中にゲオルグの野太い声が響く。
「今回我々が行うのは極秘査察任務だ。目的地はここ」
そう告げてテーブルの上に広げた地図を指し示す。フェンデリオル国領地の西方国境付近。そして指し示した位置にダルムさんが言葉を漏らす。
「そこはワルアイユ」
「知っているのか」
「多少は」
ダルムさんはそれ以上は答えなかった。
「このワルアイユ領にはミスリル地下鉱脈があり、そのためワルアイユは重要拠点とみなされている。しかしここで近年、ミスリル鉱石の横流しが発生してるとの噂が流れている。横流しされた地下資源は国境を越えて敵国トルネデアスへと流れている可能性がある」
その言葉に場が一瞬ざわめいた。
「静粛に、まだ事実と決まったわけではない。そこでだ我々は極秘裏にワルアイユ領地に向かいこの情報が事実であるか確かめることになる。明確な事実が明らかになればこれを軍本部に報告し然るべき対応を取ることになる。今から地理関係や日程などについて資料を渡す。この場で熟読して頭の中に叩き込んでもらいたい」
ゲオルグさんが言った言葉は当然だった。資料は現場へ持ち込めるものではない。情報の流出を防ぐためしっかりとその頭に覚えるものなのだ。
私もその例に倣いテラメノさんが配布してくれた資料をしっかりと目を通す。
査察対象となる領地は〝ワルアイユ領〟
領主はバルワラ・ミラ・ワルアイユ候
地方領地の中級候族だった。その資料を複雑な表情でダルムさんが眺めているのが印象的だった。
そしてゲオルグさんが言う。
「何か質問はあるかね?」
別段に質問は出ない。
「なければ打ち合わせを終わる。明日1日を準備日とし、明後日早朝、日の出と同時に行動を開始する。いいな?」
ゲオルグさんがそう告げれば皆が一斉に返事を返した。
「はっ!」
その声に頷いてゲオルグさんは会議室から去っていった。その際に私は気になっていたことを通信師のテラメノさんへと問いかけた。
「あの一つよろしいですか」
「何かしら?」
「テラメノさんは何級ですか?」
通信師――精術技術を使った念話装置を介して遠隔地に離れた人間同士で念話による通信を行う技術者のことだ。身分としては民間人扱いで特殊技能者と言う立ち位置だ。フェンデリオルにおいては広く普及している。
彼女が小脇に革鞄に入れて下げているのが念話に必要な念話装置だ
しかしその技術には段階があり、下から3級・2級・1級とある。もちろん3級と1級ではその能力には雲泥の差がある。
テラメノさんは言う。
「3級よ? それがなにか?」
「いえ、ありがとうございます」
私と会話しているテラメノさんをゲオルグが呼んでいる。
「お引き留めして申し訳ありませんでした」
「ごめんね。また後で」
彼女はそう言葉を残して去っていった。
彼女を呼ぶゲオルグさんが何やら不安げな表情で左袖の内側に視線を落としていた。
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