何発、爆薬を投げたろう、いくつ、炎の三日月を放っただろう。気がつけばその周辺に動く者はドルスとバロン以外には見当たらない。
バロンが息を吐く。
「ふう」
ドルスがつぶやく。
「これであらかた片付いたろう」
大きく息を吐いて呼吸と整えて居たが、視界の片隅になにかが見えた。
「ルストたちの後を――」
ドルスは見えたものに視線を集中させる。その正体に即座に気づいた。
「伏せろ!」
その叫びとともにエントランス広場と馬車留場との間にある仕切りの石柱の影に飛び込む。立っていた石柱は2本、それぞれにゴアズとバロンは身を隠した。その直後、鳴り響いたのは鉛弾が放たれる音だった。
バロンが叫ぶ。
「これは?!」
ドルスは耳を澄ませながら思考を巡らせていた。
「発砲音が鋭く勢いがいい、さっきのようなケツの抜けた間抜けな音じゃねえ。発射の際の密閉性が高い証拠だ! それに」
――パァンッ!――
「一発目から次弾発射まで10秒かかってねぇ。先込めじゃねえな。連射に有利な後込めだ」
――パァンッ!――パァンッ!――パァンッ!――
規則正しく数秒おきに放たれる弾丸にドルスはその正体を導き出した。
「後装式フリントロックのファーガソン式、弾はライフルド・ミニエー弾。それも2丁揃えて釣瓶撃ちしてやがる! 撃ってきてるのはさっきふっとばした城門館からだ!」
ドルスの告げた答えにバロンが問い直す。バロンも元軍人だ、軍の銃器体系にはそれなりの知識がある。だがドルスが口にしたものは彼の知識には無かったものだ。
「初めて聞く形式の銃種と弾種です」
「だろうな」
そうもらすドルスが続けて口にした言葉は意外な物だった。
「何しろ俺が軍時代に中央軍の武器工廠に出入りして開発協力していたやつだからな」
武器工廠――軍隊において武器・弾薬・消耗物資の製造開発を担う部署だ。
「えっ?」
「言ったろ? 元砲科工兵だって。その頃のつながりから新型爆薬や、新式小銃などの開発に手を出してたんだよ。非公式にな」
そして、今、自分たちを狙って撃っている銃について記憶を掘り起こした。
「人によって適正に優劣のある精術武具を補い、軍全体の戦闘力を底上げする意味で、新型兵器は密かに開発されている。俺はそれに関わっていたんだが、例の事件で軍を辞めた。その際に軍の上層部から兵工廠との関わりを続けることを要請された。軍の連中にはうんざりしてたが、兵工廠の連中は俺を信じてたからな。自分の装備を作ってもらうのを兼ねて、その要請に乗ったんだ」
ドルスは言う。
「アレはその時に開発に携わった銃だ。ガス漏れが防げず開発継続になったが性能は高い。だが問題は〝なぜ連中が持っているか?〟だ!」
それすなわち、軍本部から持ち出されている事にほかならないからだ。
ドルスはバロンに視線を向けながら言う。
「手を貸せ。あいつらぶっ潰して取り返すぞ!」
そうは言ってもどう反撃するかだ。
「方策は?」
「お前のベンヌの双角、火炎放射はどれだけ届く?」
「軽く試しましたが80フォスト(約140m)と言ったところでしょう。ここから――」
バロンは物陰越しに城門館までの位置を推し量る。
「あそこまで目測で70フォスト(約120m)、ぎりぎり届く程度です。目くらましにしかなりません」
「それでいい」
そう告げると、牙剣を腰に戻して、外套マントを羽織り直して頭にも目深にかぶった。
「合図をしたら一斉にぶっ放せ!」
「了解」
そう注げるとベンヌの双角を右手で握りしめる。
「行きます」
そう注げるバロンへとドルスは頷いた。
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