〝精術武具〟――フェンデリオルに古より伝わる精霊科学である【精術】――一度は失われた伝承を武器/武具として復活させたものだ。風火水地の4種があり私が所有しているのは地精系。物の質量や慣性制御を自在に操ることが可能だ。それが形状や機能性に合わせてカスタマイズされている。私の武具の場合、打撃することで機能を発揮できるのだ。
私は襲撃者たちに告げた。
「地力操作――、大地の力にあなた達は拘束されます。銘のない安物の武器と思って侮ったのでしょう」
そしてダルムさんにも告げた。
「私と私に触れていたものは術の対象外です、今のうちです」
「おう」
ダルムさんが正面1人と右手1人、私は残る3人、またたく間に打ち据えて動きを止める。相手が身動きできない分、容易いことだ。
だが術のかかりが浅かったのか1人が手ひどく抵抗しようとしていた。強くもがいて立ち上がろうとしている。
それをダルムさんが左手に隠し持っていた暗器を抜き放った。
――万力鎖――
細長い鎖の両端に小型の分銅がつけられた武器で、首へと絡めたり武器を奪い取ったりする。
左手を振り出す動きで万力鎖を繰り出すと、敵が持っていたキドニーダガーを絡めて奪い取った。
即座に手首を返して、その動きで首に鎖を絡めて締め上げる。
――ギャリッ!――
さらにはそのまま右に左に振り回して動きの主導権を握る。背後から羽交い締めに抑え込むと、彼は鋭く叫んだ。
「息の根止めるぞ! おとなしくしろ!」
私は、それを尻目に残る3人の手から武器を叩き落とすと頭部や胸部を滅多打ちして意識を奪うほどに打ち据える。なにしろ暗殺を試みる程なのだ。これくらいは当然のこと。慈悲や哀れみなど必要ない。
5人全員が戦闘不能となったのを確かめ、ダルムさんが捕らえた一人に私は詰め寄った。
「素性を明かしなさい。おとなしく武装解除に応じれば生命は保証します」
意図して低い声で告げて恫喝する。だがこれくらいで素直に白状するとは到底思えない。ならば手段を選ばず拷問にでもかけるしかない。
さてどうやって口を割ろうか? その思ったときだ。
首を絞められていた男が私を見つめて告げた。
「じょ、上級侯族十三家……」
その言葉にダルムさんが驚く。
「なに?」
さらに革マスクの男の声が続く。
「男神と女神の――」
言葉が絶える。匂いがする。
焦げた匂い、いやこれは、燃える匂い。
「離れろ! ルスト!」
男の言葉に虚を突かれて私を、ダルムさんの右手が強引に引っ張った。そして――
――ドオオオオンッ――
大音響が響く。暗殺者の男の頭部が革マスクごと吹き飛んだ。革マスクには鉄の砕片が無数に仕込まれていた。頭部を粉砕して正体を隠すためと、敵対者へのダメージを残すためだ。
――ビシッ! ビシッ!――
それが散弾のごとく辺りに飛散する。そのうちの一つが私の右腕をかすめて食い込んだ。
「痛っ!」
右腕に激しい痛みが走る。だがその痛みに耽溺する暇はない。
「大丈夫か?」
「平気です。それより――」
1人が爆死したことで、残りの4人は逃げる機会を得ていた。爆発による被弾で怪我をしたことで、私の集中力は切れる。
そのため精術武具の発動は止まり、重力場による拘束は停止していた。
生き残った四人は音もなく飛び去り、またたく間に逃走せしめたのだ。
「逃げられた――」
襲撃者は逃げた。残る1人は自ら爆死して素性を封じた。知らなかったこととは言え事件の核心へと繋がる糸を自ら手放してしまった事になる。それは深い悔恨となって私を打ちのめす。だけど、
「ルスト隊長」
ダルムさんが私の肩をたたきながら語りかける。
「俺は何も聞いてない。それでいいな?」
襲撃者が残した言葉、あの場にダルムさんは居た。それに対する明快な答えだった。
「ありがとうございます」
老獪な彼の気遣いが私にはありがたかった。
気落ちしている暇はない。今もなお、怪しい企みが進んでいる。そして、このワルアイユの郷が真綿で首を絞められるように苦しめられているのもまた事実なのだ。
私は毅然と胸を張る。隊長として、指揮官として。
そして力強く宣言する。
「皆を集めましょう。状況を整理します。それにあの手の者たちがあれだけとは考えられません」
私の言葉にダルムさんが頷いている。
「村を救いましょう」
「おう」
私は毅然として前を向きながら歩き出す。視界の先にはあの爆発で飛び起きた仲間たちの姿があった。
私は彼らに呼びかけた。
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