「どっせい!」
気合一閃、巨大戦鎚を振り回し巨木を倒壊させる。まさかりで倒したい方角に切れ目を入れさせ、ダルムが巨大戦鎚で衝撃を与え強引に倒させる。
そのやり方で効率よく樹木を倒して行く。
地味な作業が続いたが、さしたる派手な妨害もなく破壊消火は順調に進んでいた。
「これであらかた倒し終えたかな」
ダルム老がそう口にすれば、メルゼム村長が答える。
「これでもう十分でしょう」
村長が周りに声をかける。
「どうだ? 何か問題はあったか?!」
その問いかけに帰ってきた言葉は皆順調なものだった。
「割り当て分、作業終わりました!」
「火の拡大、ありません!」
その言葉に満足げに頷くと村長がダルムに言う。
「どうやらさしたる妨害もなく、うまく鎮火させられそうですね」
「あぁ、そのようだな」
ダルムがさらに言う。
「怪我人もねえ、妨害もそれほどでねえ、人手を使ったが延焼した範囲もそれなりに抑えられ――、〝人手〟――?」
そこまでつぶやいてダルムは沈黙する。そして、思案げな顔をするとその表情を一気に硬化させた。
「しまった……」
「え?」
ダルムのつぶやきに、村長が驚きの声を漏らす。
「なんでこんなことに気がつかなかったんだ」
「どういうことですか?」
ダルムは振り向くと村長の顔を見つめながらこう告げた。
「この放火の本来の目的はアルセラ譲ちゃんの指導力の欠如を炙り出すことだ」
「ええ――、ルスト隊長がいなければアルセラ様は取り乱したままで事態を収拾できず、その目論見通りになっていたでしょう」
「あぁ、その通りだ。だが見えない敵はそれも想定済みだった。この放火のもうひとつの目的は――」
ダルムの言葉に皆の視線が集まる。
「村から主要な戦闘力を引き離すことだ!」
「――――!!」
その言葉に全員が表情を引き攣らせた。その事実は最悪の事態を引き起こすからだ。
ダルムが言う。
「まずい! アルセラ譲ちゃんとルスト隊長が危ない!」
全員が一斉に動いた。村長がそれに指示を下す。
「伝令を飛ばせ! カークさんたち傭兵の人にも伝えろ! 村の方にもだ! 半数はここでこのまま火が鎮火するのを確認しろ! 残りの半数は村へ戻るぞ」
それは普段から市民義勇兵として鍛錬を続けている彼らならではの行動の早さだった。ダルムがその先陣を切って走り出す。
「村へ帰還するぞ!」
そうして集団は二つに分かれて行動を開始した。見えない襲撃者のもうひとつの意図に果たして間に合うのか? 運命のみが知っていた。
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