■中翼正面、部隊長ギダルム・ジーバス――
そして、中翼正面――
そこはもっとも戦闘行動の激しさが想定される場所だった。
そこに配置されていた部隊長はギダルム・ジーバス――、今年で59になる老傭兵だ。
ギダルムは周囲に問う。
「前方視認! 敵弓兵の存在を警戒しろ! 接敵直前の露払いに撃ち込まれる恐れがある。通信師は物見台に確認しろ!」
その声は老齢とは思えないくらいに張りと力があった。
右肩に担いでいるのは巨大な戦鎚。それを振り回す腕力だけでも驚くべきものがあった。さらには普段は頭には何もかぶらないギダルムだったが、この時だけは戦闘用のケープハットをかぶっていた。矢避けのために金属製の網線が編み込んであるものだ。それを左手でかぶり方を整えていると、数人の正規兵から声が帰ってきた。
「現状、弓による攻撃有りません!」
「視認確認では敵前衛は剣と槍による白兵部隊と思われます」
それらの声の後に通信師からの報告が入る。
「物見台より返信、敵、最前列には弓兵の兆候なし、歩兵部隊のみ視認とのこと」
「報告ご苦労!」
それらの報告を思案する。
「戦象の存在を前提としているから合戦初手の露払いとしての弓兵は重視していなかったらしいな」
ギダルムは老兵だ。戦闘経験はどんな傭兵よりも正規軍人士官よりも豊富にある。彼の傍らの正規兵の一人が答える。
「私も同感です。ですが敵陣後方には弓兵が控えている可能性もありえます」
「だろうな――、だがそこは〝指揮官殿〟が見越しているだろう」
ルストが何を考えているか? それを思いながらも、ギダルムは指揮官からくだされた指示を反復する。
「いいか! 3段横陣の第2層と言えど、第1層は左右展開する! 実質我々が戦闘の初合となる! 押すにせよ引くにせよ、指揮官からの采配を聞き漏らすな! 敵の思惑を超えることが重要だ!」
そして、ギダルムは叫んだ。
「フェンデリオルの戦士ならば、力だけでなく〝知〟で打ち勝て!」
その声は地の底より響くほどに強く、孫が居てもおかしくない年齢だとは思えない。その声に中翼前列の誰もが答えた。
「おおおおっ!!!」
そして正規兵の一人が叫んだ。
「接敵! 右翼左翼前衛割れます!」
ギダルムは肩に担いでいた戦鎚を両手で構える。彼らの前に控えていた左翼右翼の前衛が、陣幕が左右に割れるかのように素早く移動していく。そして、その向こうにはサーベルや槍を構えたトルネデアス兵が走り込んでくる。
「傭兵も正規兵も腹の底からふんばれ! 接敵するぞぉ!」
そして、ギダルムは走り出す。誇りあるフェンデリオルの傭兵として。
「クヴァーロ アゥレオーレ!」
ギダルムが叫ぶ。そして、重装傭兵や正規兵の白兵部隊がそれに続いた。
「クヴァーロ アゥレオーレ!」
今、西方平原の大地に牙剣とサーベルとが、激しくぶつかりあう。
白刃と白刃が火花をちらしていた。
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