ダルムさんが言う。
「それぞれが対応する敵を撃破したぜ」
プロアさんが訊ねてくる。
「こっちの首尾は――おっと、どうやら決着がついたようだな?」
こちらの状況を察して戦いが決着が付いたことに気づいてくれたらしい。二人で大広間の中を眺めている。
ダルムさんが言う。
「しかしこいつは」
プロアさんが呆れ気味に言う。
「派手にやったなぁ」
そう語りながら二人は大広間の中へ入ってきた。
「随分燃やしたもんだ」
そうダルムさんが言えば、
「火精系の精術武具か」
プロアさんが戦闘の状況を読み取っていた。
「最後の最後の大技で部屋ごと燃やしたってところだな」
「で、うちの隊長には通じなかったってわけだ」
「そういうことだろう。ま、当然だがな」
プロアさんが更に言う
「何しろ、中央の最高学府で学んで研鑽した人だ。付け焼刃の人間に勝てるはずねーよ」
口調は砕けていたが言ってることは真剣だった。
そして彼は部屋の中へと歩いてくると私が拾い上げた手にしていた紅蓮の神太刀の残骸の一部を、私の手から受け取ると真剣な表情でそれを眺めていた。
「紅蓮の神太刀ねぇ」
そうポツリと漏らすと彼は言う。
「こんなもの信じてるなんてお笑い草だぜ」
するとプロアさんは紅蓮の神太刀とされていた残骸を調べ始めた。そして握りの部分の中に何かを見つけた。
「あった」
「何があったのですか?」
「ん? 俺の〝探し物〟だよ」
そう言うと握りの部分を逆さまにつかんで上下に振る。私との戦闘でガタが来ていたのかその中身はあっさりと出てくる。
「見つけた」
中から出てきたのは一振りの小刀。片手で握れるほどのシンプルなものだ。
プロアは紅蓮の神太刀の残骸を放り投げ、見つけた小刀のようなものをしっかりと握りしめた。
「ようやく、ここまでたどり着いたぜ」
そう語る彼の顔には喜びとともに悲しみが浮かんでいた。まるで長い長い旅路を懐かしむかのように。
ダルムさんも、デルカッツも、プロアのやることをじっと見ている。私は彼に尋ねた。
「それはいったい?」
私の問いかけにプロアは意外な答えを口にする。
「隊長の地母神の御柱と同じように、250年以上前からある上級候族によって継承され続けてきた伝説級の精術武具だ」
そう説明されて私は直感するものがあった。
「まさかそれ、最強クラスの火精系と言われていた?」
「そうだ、十三上級候族のひとつ、バーゼラル家に伝わっていた精術武具、銘は『イフリートの牙』そして――」
プロアは懐の中から、その小刀に見合った大きさの金属製の鞘を取り出す。
「俺はイフリートの牙の正当所有後継者だ」
――シャキンッ!――
涼しく耳障りのいい音を立ててその小刀風の精術武具『イフリートの牙』は、専用の鞘へと綺麗に収まった。
プロアが精術武具の収納容器を所持していた。それだけでも彼の言うことの正当性がはっきりと伝わってくる。
私は驚きながら言う。
「薄々感づいてはいたんですが、まさかあなたの正体は」
私がそう問えばプロアは静かに微笑みながら答えてくれた。
「そうだ、俺の本名は『デルプロア・ガルム・バーゼラル』、十三上級候族のひとつバーゼラル家の元家督継承者だ」
すると腕を折られ肋骨を折られて座り込むのもやっとだったデルカッツが呻くような声でプロアに問いかける。
「まさかお前、それを探すために職業傭兵になったというのか?」
「ああ、職業傭兵になる前は闇社会で闇オークションのエージェントをやっていた。あんたも知ってるんだろう? バーゼラル家がバカやってぶっ潰された話」
「知っている。候族で知らぬ者はおらん」
そうだ。バーゼラル家は、当時の当主が重篤な敵国内通罪に問われて最も重い処罰である〝お家取り潰し〟の処分を受けている。家族は離散し邸宅は人手に渡ってしまい財産を債権者にむしり取られた。
おそらく彼は、せめて先祖から継承され続けてきた、この精術武具だけは取り戻そうと必死になっていたのだろう。
私も彼に言う。
「アキレスの羽を持っていると気づいた時から薄々感づいてはいましたが、実際に本人からお聞きするとやっぱり驚きますね」
私がそうといえば彼は笑っている。
「あんまり落ちぶれたんでびっくりしたろ?」
でも私は笑って言った。
「いいえ。女性のあしらい方とか意外と慣れててさりげないんで『ああこれはどこかの良い身分の人だったんじゃないかな?』と心の中で思ってたんです」
そう、初めて彼と一緒に仕事をした哨戒行軍任務の時に伏兵にやられそうになり彼に抱き起こしてもらった時のことだ。
「あー、一番最初のあの時か」
彼は照れくささを隠しながらも言う。
「つい――な、素が出ちまった」
彼はそれ以上は語らなかった。ならば私もそれ以上は問うべきではないだろう。
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