―精霊邂逅歴3260年7月10日―
―フェンデリオル国中東部、中央首都オルレア――
―学術施設区画、国立中央アカデミア『ドーンフラウ学院』――
そこはフェンデリオルの最高学府。
現在のフェンデリオルが建国されてからすぐに基礎となる上級学校が開設され、それが220年の長きに渡り拡大されてゆき現在の巨大な学び舎へと発展した――
中央首都オルレアの南西部郊外に位置し、ドーンフラウの市街区画の大半が学院を構成する学び舎とされている。
学舎は17存在し、付属する講堂や研究施設は多岐にのぼる。
さらに提携下にあるサブカレッジはフェンデリオルの全国に存在し、フェンデリオルの学力向上と知識追求を担っている。
その中でも最高の入学競争率と難易度を誇る学部なのが『精術学部』とされている。
フェンデリオル独自の精霊科学である〝精術〟
風火水地の4大精霊の概念を軸に、人間の思念とイメージで作動原理理論を構築、言霊をトリガーに、ミスリル素材を触媒として発動する精霊科学理論。
その研究と勃興が私たちフェンデリオルと言う国の趨勢を担っていると言っても過言ではなかった。それ故に国を代表する優秀な頭脳がそこに集まっていた。
そう――
そこはフェンデリオルの頭脳なのだ。
† † †
ドーンフラウ校の中核を成すのが第1カレッジ『緋蝗舎』だ。
3000人を超える学生と、500人を超える教授や講師・職員を有し、一年を通じて活発な活動がなされていた。
ドーンフラウの最主力学部『精術学部』の施設もその中にあった。
なにせ国運を担う学部。万が一にも情報流出などあってはならない。フェンデリオルの正規軍から派遣された警備兵や憲兵が昼夜を問わずその安全を守っている。それ故、上流階級の子息息女が一様に入学を志向していたのは当然だったかもしれない。
もっとも目指すことと、入学することは別な話だ――
緋蝗舎の建物の南側。そこが精術学部の建物になる。
始業時に向けて学び舎全体が慌ただしく動いていた。その中を闊歩する人物がいる。
ドーンフラウ学院大学院教授職、精術学部講師〝アルトム・ハリアー〟30代前半とまだ若いながらも見識に優れた精術学の権威と称されている。
長身で赤みがかかった金髪と言うよく目立つシルエットであり、若い女学生の中にも熱狂的な支持者が居ると言われていた。
服装はこのフェンデリオルでは進歩的と言われる三つ揃えのフロックコート姿で、襟立てのシャツに襟元をあしらうネックスカーフ、ダブルボタンベストにスマートと呼ばれるタイトな仕立てのズボン――その上に丈の長いフロックコートを羽織っていた。
講義などで教壇に立つ時は、フロックコートを脱ぎ前開きのアカデミックマントを羽織るのが彼の定番の姿だ。
左手に木製のフォルダーに挟んだ書類を携え、その両側に二人の婦女子を引き連れている。〝チヲ・チーウー〟と〝コトリエ・マーヤ・クライスクルト〟――アルトムの助手をしている女学生である。
チオは薄紫の袖なしワンピースを着た濃茶の長い髪の褐色がかった肌の持ち主でフェンデリオル人ではなく南方のパルフィア王国からの留学生で商人の娘。軽快な服装の彼女は精術学を学ぶためにこの国に滞在していた。
かたやコトリエはロングブロンドヘアの美少女で着ているものは上品な薄青いワンピースドレス。ハイネックのアフタヌーンスタイルで、腰にはアクセントに濃青のサッシュベルトが巻かれている。歩きやすいようにスカート丈は膝から少し下までだが、その下には薄手のタイツを履いて素肌の露出をさけていた。上品な服装からも分かる通り、上流階級の出であり名家クライスクルト家の息女だ。
もちろんふたりとも成績は教授助手を任される程に優秀だった。
彼女たちはドーンフラウの正学生の証である白磁のケープを肩にかけている。ケープには金糸の縫い取りがされており、白と金の輝きはドーンフラウで学ぶ者の誇りと言えた。
その二人は師であるアルトムの補助として同行していたのだ。
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