当然ながら私の言葉は反発を招いた。
「そんなバカな!」
長老格の一人が驚きの声を上げる。
「ありえない! あのバルワラ候がそんなことをするはずがない!」
メルゼム村長も強い口調でまくし立てていた。彼らが義憤に駆られるのはもっともだ。
「おっしゃるとおりです。この村を検分させていただいて、そして村の方々の言葉を聞き、ご領主の邸宅にて使用人の方たちの言葉をお聞きして今は亡きバルワラ候がそのようなことをする人物ではないとははっきり解っております。第一、仮に、そのような不正横流しで利益が出ている痕跡すら見つからない」
私が理路整然と語る言葉に村の人達が溜飲を下げて納得してくれている。
「私は、これについては〝何者かに嵌められた〟可能性が捨てきれないと思っています」
私の言葉にダルム老が言う。
「やっぱりそうなるよな。あのバルワラがこんな事をするはずがねえんだ」
義憤を隠さぬその言葉に在りし日のバルワラ候の人柄が垣間見える気がした。私は続ける。
「これは推測ですが、横流しそのものは事実だったと思っています。そしてそれは、バルワラ候の知らないところで行われてきた可能性があるのです」
私と同席していたドルスさんが言う。
「それがお前の言っていた〝第3者〟ってやつなのか?」
「そうとは限りません。ですが背後事情が複雑に入り組んでいるのは確かです。バルワラ候やこのワルアイユ領は〝はめられた〟のだと思うのです」
私がそこまで語ったところでアルセラが問うてきた。
「それで、私達はこれからどうすればよろしいのでしょうか?」
当然の質問だ。バルワラ候が密殺されたのも告発行動への口封じとも取れるのだ。おそらくはこのまま政府筋へと訴えても間に合わないだろう。ならば――
「おそらくはその第3者が隣接領のアルガルドと組んで、より過激な妨害行動へと出る恐れがあります。すでに襲撃者がこの村の近辺に潜んでいるのは間違いありません。バルワラ候の次にアルセラ様を襲う事も、この村をより過激な行動で妨害することも、考えられるのです」
そして私は皆の目を見据えながら告げた。
「そのためへの防衛態勢を整えるべきです」
それが決定的な解決策ではない。黒幕の意図を打ち破り、事態を完全に解決するにはまだ足りない要素があるのだ。私はアルセラや皆に求めた。
「ワルアイユ領とメルト村周辺の地図や施設の情報をお願いします。それをもとに対策方針を固めようと思います」
「わかりました! 村長、至急、資料を!」
アルセラが告げる。村長が声を返す。
「かしこまりました。今すぐに――」
そして私もドルスさんに指示する。
「ルドルス3級、カークさんたちに合流ポイントが変わったことを伝えてきて下さい」
「それはいいが、ゲオルグのやつはどうする?」
「強引に連れてきてください。もはやこれは調査活動の枠で収まる事態ではありませんから。それに――」
私は後気を強めて言った。
「彼は信用できません」
その言葉にドルスもダルム老もパックさんも明確に頷いてくれていた。
「解った。すぐに連れてくる」
「お願いします、ギダルム準1級とランパック3級は私に同行してください」
「解った」
「心得ました」
私たちが次の行動を決めれば、村の人達も即座に行動を開始していた。
それぞれの持場へと戻り、村の連絡網を使って隅々まで情報が伝えられるのだ。
村長が語っている。
「全村民に伝えろ。緊急事態に対応できるように準備を始めさせるんだ。準備が終わり次第、所定の代表連絡役に報告をさせろ。その上でそれぞれの持ち場で待機だ」
「わかりました。すぐに伝えます」
村長の言葉に青年部の人と思われる比較的若い男性が指示を受け入れていた。
おそらくは非常戦が起きることも考えられるだろう。
一気に剣呑な空気が漂いだしたが、やむを得ないだろう。
危険はまだ去っていないのだから。
私の脳裏にはあの革マスクの襲撃者たちの姿がよぎっていた。
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