パックは深く強く震脚するとダイトスの懐深く飛び込んでくる。同時に槍を繰り出し突きつけ、ダイトスの胸ぐらへと突き刺そうとする。全身鎧の真正面からだ。
当然ながらそのままでは刺せない。当然の理だ。だがダイトスにはパックの気迫と技が〝そうできる〟ように見えてしまったのだ。ダイトスの全身が恐怖と怯えで固まってしまったとしても可笑しくはない。気迫そのものが攻撃となることがあるのだ。
だが――
――カンッ!――
槍の切っ先がダイトスの鎧にあたった瞬間、パックは槍を手放した。自由になった自らの腕の右手を腰の脇に貯めると、前に構えた左足を強く踏みしめる。右半身と左半身を入れ替え左を軸にして右半身を勢いよく前方へと飛び出させる。
そして、下から上へと振り抜ける動きで、パックの右手の掌が繰り出された。まるで吸い付くようにダイトスの胸元を捕らえる。次の瞬間――
――ドンッ!!――
それはまるで号砲を放つかのような音だった。
パックの足先から両足、腰から背骨、背骨から腕へ――
蓄積されていた力が伝達され腕へと伝わる。さらにそれが掌で開放される。たとえ敵が分厚い鎧を着込んでいたとしてもその衝撃は攻撃対象の胴体へと確実に伝わる。ダイトスの全身は大砲で撃たれたかのように吹き飛んだのだった。
――ドオオンッ!――
放物線を描いてダイトスの体が飛ぶ。もはや武器を握りしめる余力はなく双頭牙剣は明後日の方へと飛んでいる。
――ドザッ――
地面へと体が落ちて、
――ズザザザザッ――
ダイトスの体が地面で転げ回ると仰向けになる。そしてそのまま微動だにしなかった。
パックは槍を拾い上げながら歩み寄る。慎重に敵の様子を伺いながらも、その警戒は即座に解除した。ダイトスが口から血を吐いて瀕死になっているのがわかったからだ。
パックは槍を地面に置いて礼儀を抱拳礼で示した。その口が詫びを述べる。
「これも戦場での習わし。武人と武人が相対したのなら死力を尽くすのが当然のこと」
だがダイトスはその顔に死化粧を浮かべながらも笑みをたたえた。
「――こ、こんな俺を武人と呼んでくれるか」
「優れた技を持つ者を武人と呼ばずしてなんと呼びましょうか」
「ありがとう、その言葉だけで満足――がふっ!」
ダイトスの口からさらに血があふれる。致命的な出血をしていた。だが彼は言う。
「俺はついていく人間を間違えた」
その一言にダイトスの生涯と無念が現れていた。
「できるならお前のような男に――」
そう声を漏らしてそこで絶える。ダイトスは絶命した。パックはダイトスの兜を脱がすと開いたままのまぶたを閉じてこう告げた。
「来世で逢いましょう。次は同門として」
パックは両手を合わせて合掌する。その傍らではもう一つの戦いが決しようとしていた。
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