その言葉には、かつて中央軍学校で真剣に学問に取り組んでいたエライアを正当に評価し、心から慕っている仲間たちの存在が感じられた。一度絆を結んだ者たちは、たとえ千里の隔たりを得ていても、その絆は途切れる事は無いのだ。
「ありがとうございます。間違いなくこれをエライア嬢に届けさせていただきます」
「よろしくおねがいいたします」
プロアの言葉にメイハラは答えを返した。
そして傍らから執事のセルテスが告げる。
「デルプロア様、携行食をご用意しました。お帰り道中、食してください」
セルテスが差し出したのは布の袋に包まれた携行食で、肉や野菜を折り込みながら棒状に焼き上げたパンのようなものだった。懐にしまっておいて、時折り取り出して口にする事ができるようにしてある。
「助かる。結構これで飛んでくのって腹減るんだ」
その言葉にユーダイム候が言う。
「精術武具か、バーゼラル家の家宝だったな」
さらにメイハラも語る。
「アキレスの羽ですね」
そう問われれば困ったふうの表情でプロアは答えた。
「バーゼラルの没落のさいに、これだけは手放さなかったからな。あとひとつの家宝は持ち出されてしまったが――」
メイハラは問うた。
「まだお探しになられて居られるのですか?」
「あぁ、必ず取り戻す。そのために国中を探し歩いているんだ」
「なるほど」
メイハラはプロアの言葉に彼の真剣さを感じ取らずには居られなかった。
プロアもそれ以上は口を開かない。バーゼラル家の過去の事件については軽々しく語れる物では無いからだ。
皆を一瞥しつつプロアが言う。
「じゃ行かせてもらうぜ」
プロアはあらっぽく告げる。かつての侯族のデルプロアとしてではなく、職業傭兵のルプロアとして――
そして、その口調に彼が戦地へと赴かねばならない事を誰もが感じずには居られなかった。
メイハラが告げる。
「御武運を」
ユーダイムも声をかける。
「エライアによしなにな」
そして、セルテスが侍女たちに命じてゲストルームの窓扉を全開にさせる。
今こそ仲間たちの待つ戦場へと帰還するときだ。
「では――失礼します」
一瞬だけデルプロアに戻り言葉を残す。そして、開けられた窓へとステップを踏みながらプロアは叫んだ。
「精術駆動! ―飛天走―!」
――素早くステップを踏んで助走すると、一陣の風を纏いながらまたたく間に大空へとプロアは飛んでいった。
窓際に駆け寄ると、その姿をユーダイムたちは見送っていた。やがてシルエットが見えなくなりユーダイムは告げた。
「わしも行くぞ。足元の大掃除をせんとな」
その言葉には今回の事件でユーダイムが識る人物の範囲内でも、関与する人物に心当たりがあることを表していた。事件に孫娘であるエライアが巻き込まれており、西方の彼方で必死に戦っているとなれば何もせずに見守るわけにも行かないのだ。
「セルテス! 大至急親族会議を招集せい」
「かしこまりました」
ユーダイムに対してメイハラも告げた。
「それでは私は軍内部を洗い直してみます。憲兵部隊にも極秘に調査を依頼します」
「頼むぞ、メイハラ」
「はい。軍に巣食うダニを退治する良い機会です」
そして彼らもまた歩き出した。フェンデリオルという国を守るために、この国の市民を守るために。
戦いは続いているのだ。
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