旋風のルスト 〜逆境少女の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方国境戦記〜

美風慶伍
美風慶伍

第2話:脱出行

ルスト戦う

公開日時: 2021年6月12日(土) 21:10
文字数:2,282

シャ!」

殺ーーーシャァァァァ!」


 それはその暗殺者たちの放つ威嚇の声だ。

 我がフェンデリオルとは異なる言葉。

 だが、その意味は伝わる。むき出しの悪意がふんだんに込められた殺気が叩きつけられてくる。

 

「なにを怒り狂っているのよ。蛮族風情が!」


 真に怒りを抱いているのは私――否、私達の方だ。

 誰と結託したのか知らないが、わざわざ海を超えて国境を超えて、西の果てにまで訪れて、したことと言えば殺人と火付け――

 こんなことのために技を研鑽したというのだろうか? 愚かを通り越して哀れですらある。

 

 両足を軽く開いて立ち、右手で掴んだ戦杖を旋回させる。

 次いで、両膝をかがめると、旋回させた戦杖を勢いをつけたまま背面から左斜上を経由させて一気に地面へと振り下ろす。

 

「はあっ!!」


 戦杖で地面を強く打ち付け気合を入れると、一気に駆け出した。

 

「ハァアアアアッ!!」


 腹の底から絞り出すように叫び声を上げながら敵へと向かえば、襲撃者は4人同時に屋根の上で跳躍した。彼らが狙いをつけたのは無論のこと、私へ向けてだ。4人同時に襲いかかり確実に仕留めようと言うのだろう。

 

――こいつら、やはりあのときの!――


 あの野営地にてダルムさんと一緒に居た時に襲ってきた時の事を周知している。

 私が繰り出した精術武具の技――〝地力縛鎖〟を知っているのだ。

 私と同じ地面に立てば地面の力に縛りつけられて一網打尽にされる。ならば高さと空間を利用して一瞬にして封殺する方法を選んだのだ。

 異国の蛮族とは言えそれなりに知恵はあるようだ。だが――

 

「甘い!」


 私は手にしていた戦杖を一旋させながら聖句詠唱する。


「精術駆動 ――軽身歩!――」


 その詠唱と同時に私の戦杖の打頭部から鈍い振動音がする。

 

――ヴゥゥン――


 耳に聞こえるか否かギリギリのかすかな音とともに、私の手に力が伝わってくる。大地の力を操作する地精の力。そしてその力は私の全身へと伝播する。

 敵の4人同時のキドニーダガーでの切りつけ攻撃が私を襲うのとほぼ同時に、私は地面を強く踏みしめ跳躍する。

 

――ダァアアン!――


 右足の強いステップと同時に私の体は高く高く舞い上がる。

 

――タンッ!――


 舞い上がるだけでなく空中に仮想の足場を作り上げステップを踏み軌道を変える。

 

――タタッ!――


 さらにステップを踏み高さを確保する。家の屋根3階分はあるだろうか。

 私の眼下では暗殺者の4人が驚愕の視線で私を見上げているのがわかる。

 

「悪意をもって悪しきを成す者どもよ! 思い知るがいい!!」


 戦杖を頭上へと高く振り上げて私は詠唱する。

 

「精術駆動! ――巨人縋きょじんつい!――」


 右手で握りを強く掴み、左手で戦杖の竿の中程を持つ。そして、眼下の暗殺者たちを叩き潰すように戦杖の打頭部を振り下ろす。小型の打頭部で4人全部を叩き潰すかのように。

 そして――

 

――ズドォオオオオン!――


――大音響と地響きが鳴る。まるで目に見えない巨大な石塊が地面に落ちたかのように。

 左足を後ろに、右足を前にして、膝をかがめて戦杖を地面へと叩きつけるような姿勢で私はそのまま降下する。

 そして、目に見えない巨人の振るうハンマーが鉄槌を食らわせたかのように地上には打撃の後が残されていた。無論、その真下となっていた4人の暗殺者たちは岩石に押しつぶされたかのように圧迫されていた。

 

――ダンッ!――


 技を繰り出し終え地面へと舞い降りる。速やかに立ち上がると敵の様子を確かめる。私の技を食らった4人は起き上がることなく半死半生の状態だった。即死ではないが銘のない精術武具だとこの程度が限界だろう。


シャ!」


 一人が立ち上がって威嚇しようとしている。圧倒的な力の差を目の当たりにしても発露させた殺意を止めることはなかった。

 

「愚かな――」

 

 私は介錯をすることにした。足元から小さな石ころを拾い上げる。

 

「――重打撃――」


――パァン!――


 甲高い音をともなって、私は石塊を打撃して撃ち放った。そしてそれは立ち上がった暗殺者の胸ぐらへと食らいつく。

 

――ドゴッ――


 鈍い音を響かせて目標の胸骨を砕き、敵の体は地面へと崩れ落ちる。残る3人も身動き一つしない所見るとほぼ瀕死だろう。

 だがその時――

 

――ヒュッ――


 私の頭上を風切り音がする。一本の矢が撃ち放たれたのだ。

 矢の飛びゆく先を視線で追えば家屋の屋根の片隅に膝立ちする暗殺者がいる。その手には短弓矢が握られている。だがその弓矢は放たれることはない。私の頭上を過ぎていった矢がその者を射殺したからだ。

 

――ガシャッ――ドザアッ――


 屋根の上で倒れると、そのまま地面へと落ちていく。矢が放たれた方を見上げればそこに居たのは――

 

「隊長!」


――狙撃を命じたバロンさんだった。役場の建物の屋上から狙撃したのだ。


――ドンッ!――


 次いで重い打撃音が響く。音の主は打撃技で相手の胴体を撃ち抜いたパックさんだった。こちらも物陰から短弓矢で私を狙っていた。

 

「ルスト隊長――ご無事ですか?」

「バロンさん、パックさん! 敵は?」

「裏手で控えていた者たちは倒しました。屋上から狙撃可能な者はバロン殿が」

「ご苦労、ではアルセラさんたちを――」


 そう告げると同時に、役場建物の中から凄まじい光の噴流が吹き出てくる。そしてそれに吹き飛ばされるように一人の暗殺者がはじき出されてきた。次いで、溢れんばかりの光のほとばしりが役場の中に満ちる。


「アレは?」


 パックさんが疑問を口にするが、私にはわかる。

 

「アルセラ! 精術武具を使ったのね!?」

「なんと!」


 私はバロンさんにも聞こえるように告げる。

 

「役場内へ!」

「了解!」

「心得ました」

 

 各々に返答が返ってくる。私たちは外での戦いを終えアルセラたちの元へと向かった。


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