動き始めた村人たちの群れの中で様々な人間模様が描き出されていた。
――幼子を避難部隊に託して分かれる母親がいる。
「うちの子をお願いします」
老いた女性がまだ乳飲み子でしかない子供を受け取り抱きかかえている。
「子供の面倒は安心して任せておくれ。それより必ず生きて帰るんだよ」
「はい、お約束します」
――成人したばかりの息子だけを本隊に託す家族がいる。
「お前一人を行かせてしまうことになって――」
「すまんな」
そう語る両親だが父親の方は松葉杖を頼りに足を引きずって歩いていた。だが息子は誇り高く答える。
「何言ってるんだよ。父さんたちだってこうやって戦ってこの村を守ってきたんだろ? こんどは俺の番だよ」
息子のその言葉に両親は誇らしげに息子の肩を叩いていた。
――父や息子に言葉を残す老人がいる。
「口惜しい――体が利けばワシも一緒に行けるのに」
それはかつては戦場に立ったこともあるだろう老人だった。だが老いとともに体は言うことを聞かなくなる。村のために戦えたのは彼にとって誇りだったに違いない。
だが戦地へと向かうこととなるその息子と孫は祖父を諭すようにこう答えていた。
「親父、まだやれることはあるだろう?」
「そうだよ、避難場所に向かう人たちを護衛するのも大切な役目だよ」
それが慰めでしか無いのは誰にもわかる。だがそうだったとしても祖父には嬉しかったに違いない。
「そうか――そうだったな。皆のことは任せておけ」
「あぁ、頼んだよ。親父」
「必ず生きて会おう」
祖父から子へ、子から孫へ、それもまた連綿と続いてきた絆だった。
そんなふうに様々な光景が繰り広げられるなかで、査察部隊の仲間たちが思い思いにつぶやいていた。
カークさんが言う。
「いい村だな」
ダルムさんが答える。
「あぁ、困難を皆で乗り越えてきた村だ」
ゴアズさんが言う。
「そこに関われたのは運命としか言えませんね」
パックさんが言う。
「精霊と神の導きですね」
バロンさんが言う。
「だからこそです。私たちが要とならねば」
そして私が答える。
「そのとおりよ。泣いても笑ってもこれが最後の戦いよ」
そう言葉を投げつつ視線を向ければ、皆が頷いてくれていた。
私は、彼らと関われたことを、何よりも誇りに思えていた。
† † †
そして村長のメルゼムが用意してくれた馬を活用しながら、戦闘部隊の陣容を決めていった。
馬の扱いを期待でき集団の誘導を任せられる元軍人組のルドルス3級、ダルカーク2級、ガルゴアズ2級、バルバロン2級を隊列の四隅に配置する。私ルストとギダルム準1級がアルセラ嬢の護衛を兼ねて中程に位置する。残るランパック3級がメルゼム村長とともに隊列後方で殿の役目を引き受けてくれた。
そしていよいよ移動開始――
「出発!」
避難部隊に別れを告げながら、夜の闇に紛れて一路西へと旅立った。
私たちの後方からは、謎の黒幕の息がかかった信託統治委任の執行部隊が迫ってきているはずだ。
そして、その中にはアルガルド領の手の者が潜んで居る可能性も高い。彼らがどういう行動をとるかは予想だにできない。
だとしても、そうだったとしても、私たちには全力で戦うしかない。
全ては運命の神だけが結末を知っていた。
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