役場の中へと足を踏み入れる。
するとそこには全身を光の飛礫で撃ち抜かれた無残な襲撃者が二人倒れていた。
そして、それを成したのは――
「アルセラ!」
――領主として大切な役目を果たしたアルセラだった。
「ルスト隊長……」
「大丈夫ですか?」
「はい――」
そう答えるアルセラの顔には疲労の色が浮かんでいる。精術武具は使用者の精神力や生命力を糧として技を繰り出す。本来であればそれに耐えられるように基礎的な鍛錬を終えてから使用できるようになるのだが、アルセラは慣れない状態で、お父上からの聞きかじりの状態で必死に使おうとしたのだろう。
下手をすれば気を失う事すらあり得るのだが――
「お見事です。無事、使いこなせましたね」
「はい」
――アルセラはなんとか踏みとどまっていた。疲労の色は隠せなかったが、この状況を見れば、彼女が何を覚悟し、何を成そうとしたのかよく分かる。アルセラの肩をそっと抱き寄せながら、周囲に告げる。
「ちょっと、お嬢様をお借りします」
見れば気絶させられていた執事のオルデアさんを皆が介抱しているところだ。致命傷にはなっていないようだから大丈夫だろう。
他の人たちもパックさんが早速に応急処置を始めている。こちらも問題なさそうだ。
別室へとアルセラを促し椅子をすすめる。鍛錬をしなれていない者が精術武具をフルに使うというのは恐ろしく生命を消耗する物なのだ。
皆の手前、意識して凛として振る舞おうとしていたのだろう。別室で二人きりになると崩れ落ちるように椅子へと座り込む。本当は立っているのがやっとだったのだ。
私はそんなアルセラをそっと抱きしめた。
「よく、頑張ったわね」
私の言葉にアルセラが頷いていた。その肩が震えているのがわかる。目の前で行われた襲撃行為に心胆が冷えきるほどに恐ろしかったに違いない。だが彼女は立ち向かった。そして家族に等しい使用人を、そして領民たちを自らの手で守ったのだ。
「あなたのお父上も安心しているはずよ」
「はい――」
私の言葉に彼女は小さく頷いた。そして安堵からか、こみ上げてきた思いにすすり泣く声が出る。そんな彼女に私はそっと語りかけた。
「あなたは〝領主〟よ」
今まさにワルアイユの侯族の血統は引き継がれたのだ。
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