それから日が沈んだ夜更けのこと、
アルセラやメルゼム村長と村のことをで話し合っていた私のところに現れたのはゴアズさんだった。
「ガルゴアズ2級?」
「隊長、すまないが一緒に来てくれ」
「わかりました――アルセラ様、村長、すこし失礼致します」
彼らに断りながらその場から離れると、人目を避けて村外れへと向かい人気のない農機具小屋のあたりへと案内されていく。
そこにはほとんどの隊員が居た。ラメノさんの姿もあるが、プロアの姿だけはなかった。
私が姿を現したところでバロンさんが小屋の中へと声をかけた。
「来たぞ」
その声を受けて中からプロアさんが出てくる。彼に縄で縛られ捕縛されていたのは誰であろうゲオルグだった。
見つめる私にプロアは自ら説明を始める。
「鉱山組の連中が襲撃者から鉱山労働者を守ろうとしている間に、こいつだけその場から一人離れて逃げようとしていたんだ。その理由を問い詰めたんだが抵抗したんでな、ふんじばって捕らえておいた。どうする? 隊長?」
プロアさんはもとより、ほかの隊員たちも私の判断を求めている。私は即断した。
拘束されているゲオルグを見下ろしながら私は言う。
「ゲオルグ中尉、申し伝えますが、あなたがすでに偽軍人で有ることはわかっています。抵抗せず素直にすべてを明かしてほしいのです」
すると傍らでドルスさんが声を漏らす。
「〝偽軍人〟は重罪、死罪もありうるぜ」
だが私はたしなめるように言う。
「尋問しているのは私です」
場の流れを差配するのは隊長である私だ。わざと低い声で気迫を込めて語ればドルスは沈黙した。
それまでゲオルグを見下ろすように立っていたが、しゃがみ込み彼と同じ目線に降りる。そして私は告げる。
「沈黙を守りたければそれで結構です、ですがそのまま聞いてください」
そいう語りかけるがゲオルグには反応はない。だが私は続ける。
「まず、なぜ偽軍人と判断したかです」
それまで視線すら合わせなかったのが、少しだけこちらを向いた。
「まず、極秘の単独任務をする正規軍人は珍しくありません。ですが同行させている通信師のラメノさんがそもそもおかしいんです」
私の言葉にラメノさんが困惑の表情を浮かべる。
「まず単独の極秘行動をする場合、3級の通信師を同行させることがそもそもありえないんです。何故だと思いますか?」
私の問いにゲオルグは黙したままだが視線をこちらへと向けている。わずかながら心を開き始めている。さらに畳み掛けるように告げる。
「それには理由があります。あなたの軍人としての認識識別番号のことについてです。初めてあったときの打ち合わせの際に軍人徽章を見せられたが徽章自体は本物でした。しかしその番号が違うんです」
「な? 何を言ってる? デタラメを言うな!」
「デタラメではありませんよ」
焦って叫ぶゲオルグに私は取り合わなかった。片端でドルスさんが言う。
「よく覚えてたな」
「目はいいので」
あっさりと答えて話を続ける。
「同行しているルプロア3級に西方司令部付属の兵站管理部の一つへ行ってもらいました。そしてゲオルグさんの識別番号で物資支給の依頼をしてもらったんです」
するとプロアさんが言う。
「頼まれたあれだったが、だめだった。識別番号を告げたら受付に断られた」
その声に私は頷きつつ続ける。
「そもそも識別番号には〝管理符牒番号〟と言うのが仕掛けられています。18桁の識別番号の中に3桁の数字が、偽造番号防止のために混ぜられているんです」
私はゲオルグの目をじっと見つめながら告げる。彼の目線が明らかに泳いでいた。
「その識別番号妥当性確認のための計算方法は軍内部でも極秘です。簡単には知りえませんし、漏洩には厳しい罰則が待ってます。ですが、ある部署だけは妥当性確認が逐次認められています。それが『地方司令部兵站管理部』と『2級以上の通信師』なんです」
その言葉にゲオルグが蒼白になっている。もう言い逃れはできなかった。
「そもそも極秘の単独行動をする正規軍人は珍しくはありません。通信師を同行させるのもよくあることなんです。ですがその場合、同行させるのは〝2級以上の通信師〟であり識別番号の妥当性確認ができない3級を同行させるのはまずありえないんです」
あたりまえだ。
誰が発信したのかわからない通信など軍隊で通用するはずがないのだから。
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