かたや――
手にしていた槍を右手で一閃させるとその先端を地面へと突き立てる。
「覇ッ!」
パックはそのまま槍を手がかりに高々と舞い上がる。軽身功と呼ばれる東方武術独自の体捌きだけがなせる神業のひとつだ。
今、パックの周りには鎧姿の衛兵たちが複数取り囲んでいたが、その彼らの頭上を高々と越えるとそのうちの一人の頭上へと降り立つ。
とっさにその者の両肩に脚を乗せると次の瞬間。
「ふっ!」
両足で彼の者の頭部を挟むとそのまま体を錐揉みさせるかのように旋回させる。
――ゴキッ――
鈍い不気味な音がして脛骨が折れる。その人物はそのまま絶命した。
敵の反応を待たずしてパックは再び跳躍すると少し離れた位置へと降り立つ。と、同時に左手の小脇に槍を抱えるように構えると敵対者の立ち位置を視認する。
「4人」
初手で一人を屠ったのだが、残り5人のうち1人が後方へと下がっている。おそらく隊長格だろう。まずはこの雑魚たちを始末するのが先だ。
「はっ!」
左手だけで槍を繰り出し敵の牙剣と鍔迫り合いする。
――カッ! キィン! カカッ! カキィン!――
と同時に、後ろへ後ろへと下がりながら間合いを取れば、敵は個々の攻撃技術の優劣から布陣が前後に間延びしつつあった。そしてそれこそがパックの狙いだった。
――ブオッ!――
突如、左手だけで構えていた槍を勢いよく前方へと突き出して即座に引き戻し、右手を後ろ手に添えて両手で槍を構え直す。
さらに歩法を駆使し、一気に接近すると槍先を螺旋状に動かし敵の牙剣の切っ先を払いつつ勢いよく繰り出す。槍は敵の鎧の顔面の眼窩の隙間から突き込まれ頭部を串刺しにする。次に敵の絶命を待たずに槍を引き抜くと、パックから見て右手奥に控えていた二人目を攻める
パックから見て左の体側を見せていたのが運の尽きだった。再び繰り出された槍は鎧の前後の合わせ目のところから巧みに突き刺さり、肺臓をえぐり体内の血管を切り裂く。そのまま槍を強引に動かして敵の体を払いのけ、敵はまたたく間に絶命した。
屍を2つ増やしてもパックは止まらない。
死んだ二人の体を越えて高々と跳躍すると、残る2人は舞い降りてくるパックに向けて大型牙剣を切りつけようとする。パックはそれを蹴りの2連撃で軽くいなすと2人の足元へと低姿勢で着地する。
今度はその姿勢のまま自らの右半身を前へとして構え、右手で槍は肩の上に乗せる。そして――
――スパンッ!――
するどい音が響いて、低姿勢からの足払いが決まる。敵が重装の全身鎧を身につけているにも関わらず、パックの足払いは重量を物ともせずに敵の片足を弾き飛ばした。
姿勢が維持できねば構えはとれない。そうなれば攻撃はできないも同じだ。
まずはパックの左側の敵を攻める。
――ズグッ――
湿った重い音が響く。鎧の主たる隙間の1つである股下の位置からの突き上げの刺突だ。
最も柔らかい部位から槍の切っ先が斜めに突きぬかれて背面へと抜ける。
――ズシュッ――
素早く引き抜き残る一人へと意識を向ける。払われた脚をようやく踏み直しつつある敵に回復の余地を与えることなく、槍の切っ先の反対側・石突の方を横薙ぎにして腰の位置を強打する。
――ガアンッ!――
さらに返す動きで切っ先の方で頭部を横薙ぎに強打する。それで完全に構えも攻撃の姿勢も取れなくなったところで、パックの槍は残る一人の喉を捉えた。
――ザクッ!――
正面から気管と食道を貫き背骨と延髄を貫通する。その状態で敵は死んだも同然だった。
――ガランッ――
敵の手から大型の牙剣が離れて地面に落ちる。そして――
――ズシュッ――
再びやりを引き抜けば敵の遺骸は地面へと崩れ落ちた。
パックの視線は死した4人には向いていなかった。残る一人――隊長格のもうひとりへと向いている。
「お見事」
その彼はパックの体技を称賛するかのように話し始めた。
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