「あー、カークとゴアズの旦那ら、早速おっぱじめたな」
そういつものボヤキ口調で語るのは〝ぼやきのドルス〟ことルドルス・ノートンだった。さらに彼の口から出てくるのはなおも愚痴だった。
「しかし、貧乏くじ引いたぜ。一番面倒な所じゃねえか。つーかこれをどう伐採しろってんだよ」
グチグチと続くボヤキに案内役の青年たちも迷惑そうだ。
もっとも彼らの眼前では伐採可能な木々はすでに燃え始まっている。切り倒しても間に合わない可能性がある。
「あの、ドルスさん」
「ん?」
「早く火を消さないと――」
案内役の一人が恐る恐る問いかける。周りの不安気な表情にドルスはため息を付きながらも詫びをかえした。
「あぁ、わりぃわりぃ、さっさとやることやらねえとな」
そう言いつつもドルスが始めたのはよりによって――
「ちょ――」
「何やってんですか?」
「ん?」
――ドルスは紙巻たばこで喫煙を始めていた。
「見りゃわかんだろ」
そう言いながら目の前の火災に近づき、その炎でタバコに火をつけていた。そしてくわえタバコで右手で片手用牙剣を抜いて振り回しながら周囲を確かめ始めた。
「これが俺の本気の時のスタイルなんだよ」
「はぁ――」
ドルスの答えに誰もが呆れている。だがそんな視線をドルスは物ともしない。
「もともと俺はこう言う事が得意なんだよ」
そう漏らしながら腰に巻いたベルト付きの金属製ポーチの中から取り出したのは親指ほどの大きさの球体だった。見れば一箇所から細長く線が突き出ている。それをくわえタバコの火で点火するとすぐに目の前で燃え盛る木々の一つへと放り投げる。
――ヒュッ――
放り投げられた球体は的確に燃える樹木の一つへと向かい、そして接近したところで炸裂した。
――ドオオンッ!――
それは大音響を伴いながら木々の火勢を吹き飛ばしながら燃え始めた樹木の一つを押し倒した。それも破壊消火としては理想的な方向へと。
そう、ドルスが取り出した球体は〝爆薬〟である。
「おーし、これなら行けるな」
そう漏らしてドルスはさらに爆薬の球体を取り出す。
「お前ら、離れてろ。耳痛めるぞ」
「は、はい!」
ドルスに促されて若者たちは離れていく。そこから先はドルスの独壇場だった。
爆薬を取り出し連続して爆破して行く。そして爆風とともに火勢を殺して吹き飛ばしていく。
ドルスが担当したのは最も火勢が勢いづいているところだったが、彼の行う爆破消火のほうが勢いは圧倒的に上だった。さらには爆破で地面ごとえぐることで類焼を完璧に防ぐ意味もあった。
「す、すげぇ」
そう驚きの声がギャラリーからもれるが、彼らの視線の先には炎上する一歩手前の麦畑がある。だがドルスの爆薬はどんなに地面を吹き飛ばしても麦畑には一切ダメージを与えなかった。それはすなわち――
「爆薬の影響範囲を読み切ってる?!」
――その爆風すらもドルスの手の内なのだ。
「そう言うこった。俺はもともとは砲科工兵だ。大砲や銃の取り扱い、火薬の管理、爆薬の使用、それと火災と消火の両方について学んできてる。これくらいの事は朝飯前だ。そして――」
ドルスは手にしていた爆薬の球体の一つに点火しつつその場で放り上げた。そして、右手で握った片手用牙剣の側面を使って爆薬を打撃する。それはよくある球技のそれのようにボールを打ちはなったかのように爆薬を打った。
――カアン!――
甲高い音が響いて爆薬は緩やかな放物線を描いて飛んでいく。飛び去る先はドルスの背後の麦畑だ。
「人が喋ってるのに邪魔すんじゃねえよ。革マスク」
苛立たしいそうに吐き捨てるとドルスは視線の先に麦畑の中に潜んでいた革マスクの襲撃者の姿を見ていた。弓をつがえて撃とうとしていた。その襲撃者へと爆薬の球体は正確に飛んで行きそして――
――ドムッ――
――鈍い炸裂音を響かせて襲撃者の頭部を吹き飛ばした。
「せっかく麦畑を汚さねえように仕事しようとしてたのによ。お前らの汚れた血で真っ赤になるじゃねえか」
そう吐き捨てながら次の爆薬を取りだすと点火する。
――カアン!――
それをさらに打ち放ち麦畑に身を隠していた襲撃者を攻撃した。
――ドォン!――
二人目は胸元を爆破される。後ろのめりに倒れ込み微動だにしなくなる。
――ザザザザ――
小麦の稲穂が掻き分けられる音がする。他にも潜んでいたようだが不利を悟ったのか即座に退避を始めた。
「やった!」
若者の一人が喜びの声をあげる。だが、ドルスは否定する。
「いや――、まずいな」
「え?」
「村のほうがあぶねえ。急がねえとやばいな」
あたりを見回せば、カークやゴアズの破壊消火も進んでいるようだ。ドルスは言った。
「急いでこっちも終わらせよう。この放火、まだ裏がありそうだ」
そして残る受け持ち領域で爆破消火を始めた。ドルスはもはや愚痴を吐きはしなかった。
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