言葉もなく3人は控えの間に隣接する部屋へと移動する。
そこは2階と3階が吹き抜けとなっている巨大な空間だった。
「これは――」
プロアがそう漏らしつつ、その場に視線を走らせる。そこは一般にこう呼ばれている場所だった。
「謁見の間?」
2階分のフロアをぶち抜いて作られたその空間の周囲には大理石の飾り柱が立ち並び、濃朱のビロードのタペストリーが飾られている。さらには突き当りは階段状になっており、その一番上の頂きには〝玉座〟が据えられていた。
先にその空間に入ったアシュゲルとハイラットは玉座へとつながる階段の一番下に並んで立っていた。アシュゲルが言う。
「いかにも、正しくは〝玉座の間〟だがな」
「玉座――」
「そうだ」
そう聞かされてプロアは吐き捨てる。
「頭おかしいぜ。お前らのご主人さま」
「なんだと?」
プロアの侮蔑にハイラットは切り返す。呆れ気味にプロアは言う。
「だってそうだろ? この国に王は居ねぇ。それが建国以来ずっと守られてきた〝民族の理念〟だ」
「それがどうした?」
「なに?」
プロアの問い返しにハイラットは言った。
「我らが主はこの国を導くのだ。くだらぬ政争の愚を繰り返す侯族連中を平らげてな」
アシュゲルも言う。
「優れた指導者が一人要ればいい。それでこそ人々の意思は一つになる!」
それが彼らの信じた理念だった。そう彼らの主人であるデルカッツから刷り込まれているのだろう。プロアは軽くため息をついて吐き捨てた。
「めんどくせぇ。さっさとやろうぜ」
ハイラットとアシュゲルを睨みつけながら彼は言う。
「勝った方の言い分が正しい。それでいい」
「よかろう」
「望むところだ」
瞬間の静寂が訪れる。次の瞬間、館の外で爆発音が鳴り響いた。おそらくはドルスの爆薬か銃声だろう。
それを引き金にして彼らの戦いは始まった。
† † †
「行くぞ」
「あぁ」
そう声を掛け合いながら先に動き出したのはアシュゲルとハイラットだ。
すでに抜剣していた二振りの牙剣――インドラの牙を斜め下に向けて構えつつ小走りに走り始める。だがその進む方向は双方逆だった。
「―――」
それを無言のままで眺めているのはプロアだ。
彼には優れた体術で白兵戦闘を可能にするブーツ型の精術武具であるアキレスの羽がある。それを用いて空間上での3次元立体戦闘を得意としている。だが彼はまだ自らの手の内を見せようとしない。
敵の出方をじっと見守りながら力をためているようにも見える。それをアシュゲルたちは軽んじるように侮蔑の言葉を投げかける。
「どうした! 手も足も出ぬか!」
ハイラットも叫んだ。
「こちらから行くぞ!」
そして2人は、たちすくむプロアを挟むかのような位置を目指しながら聖句を唱えた。
「精術駆動!」
「―雷神鉄鎖!―」
そう叫びながら両手で構えた牙剣を頭上高く掲げれば、その先端から金色の稲光がほとばしり、それぞれの持つインドラの牙の剣先をつなぐ。
――ガカァッ!――
そしてその金色の稲光は消えることなく一条の直線となって二人の間をつないでいた。無論、それに触れれば――
「焼け死ね!」
――一撃で死あるのみだ。だがプロアは吐き捨てる。
「馬鹿二匹に教えてやるよ。俺が過去、何をしてきたかを」
プロアも動いた。その脳裏に攻略のための秘策を秘めながら。そしてある事実をアシュゲルとハイラットに突きつけた。
「精術武具の闇オークションのエージェントだ!!」
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