それに続けて声を漏らしたのはカークさんだ。
「思い出したぜ」
彼は愕然としつつ続けた。
「エライア嬢と言ったら、フェンデリオル正規軍の中央首都軍大学を、主席でしかも飛び級で卒業したはずだ!」
ドルスさんも言う。
「俺も聞いたことがある。軍大学始まって以来だって騒ぎになってた」
カークさんが相槌を返した。
「あぁ、在学中から軍の上層部が日参して勧誘していたとも言われている」
それに切り替えしたのがゴアズさん。
「ですが卒業と同時に突然、隣国のヘルンハイトへと留学したと言われています」
ドルスさんがそれを否定した。
「でも、それは誰も信じちゃいない。失踪したか大病でも患ったのかってもっぱらの噂だった」
様々に投げかけられる言葉に私は意味ありげに微笑んだ。
「それについては後ほど――」
今は優先するべき事がある。私はオブリスさんに告げた。
「もし協力していただけるなら、司法取引と奥様の治療について尽力させていただきます。そのためも私も実家に協力を願い出るつもりです」
「ほ、本当によろしいのですか?」
「えぇ、あなたが本意からこのような悪事に加担していたのでないとわかれば、それ以上あなたを追い詰める理由はありません。むしろ、手助けをすることでお互いに益があるのであれば手を差し伸べない理由はありませんから」
「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
私の申し出に彼は即座に同意していた。地面に額を擦り付けるように頭を下げて泣いて感謝している。その姿に皆も不承不承ながら同意しているのがわかる。
「みなさんも異論はありませんね?」
「あぁ」とプロア、
「異論はない」とカークさん、
「右に同じ」とバロンさん、
「私も」とゴアズさん、
「ま、しゃーねえな」とダルムさん、
「極めて妥当な判断だと思います」とパックさん。
そして最後にドルスさんが言う。
「いいのか? 事情があって消息を絶ったんだろう?」
その言葉に私の身の上を案じるニュアンスが込められている。だが私は言った。
「実家には敵ばかりじゃありません。祖父も健在ですし、味方はまだいます。なんとかなりますよ」
「お前がそう言うなら何も言わん」
ドルスさんは本当にそれ以上は何も言わなかった。
そして、オブリスさんが証言を始めた。皆が耳を傾けいていた。
「そもそも今回の一件は、ルスト隊長を除く7人を、このワルアイユ領につれてくる事が目的だったんだ。そして、調査と称して村をあちこち探索し始めたのを確認して、自分だけ離脱するように指示されていた。後のことは別な人間が対処すると」
私は視線でラメノさんを示しながら言う。
「テラメノ通信師も置き去りだったんですか?」
「あぁ、彼女への任務指令書も偽物だったからな」
その言葉にラメノさんが憮然としているのが分かる。まぁ、当然だね。
「そして、西方都市のミッターホルムに戻ったときに所定の報酬をもらう約束だった」
それに対してプロアが言った。
「で、黒幕はあんたを殺す予定なんだろうな。口封じに」
プロアの言葉にドルスが言う。
「死人に口なしだからな」
その言葉を神妙な面持ちで聞くオブリスさんが言葉が続ける。
「このメンバーを指定してワルアイユ領に虚偽の指令で部隊を向かわせる指示を発行したのは、西方司令部に所属する〝ガロウズ・ガルゲン〟と言う男だ。作戦司令部所属で階級は少佐のはずだ」
そこでカークさんが言った。
「聞いたことがあるな。そこそこ名前の売れている士官だ。さして優秀とは言えないがな」
「よくある人材ということですか?」
「ああ、悪い意味でな。下心と欲望だけは一人前だ」
私が問えば予想通りの答えが返ってきた。内心、ため息をつくしかない。私は言った。
「西方司令部レベルで今回のような騒動の黒幕となるのはまだ弱いです。精巧な偽の作戦指令書や、本物と変わらない緻密な軍人徽章を作るなど地方司令部では無理です。おそらく中央本部レベルの人物の存在が絡んでいるはずです」
そこまで語ったときだった。オブリスさんが叫んだ。
「思い出した! たしかガロウズってやつは〝モルカッツ〟って名前をつぶやいてたぞ」
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