状況は動き続ける。
通信師の少女が告げた。
「指揮官に報告!」
「話しなさい」
「物見台より打伝、トルネデアス越境侵略軍、陣形を変容させつつあるとのこと。移動用の2列縦陣から鋒矢へと移行しつつあるそうです」
その報告に私は速やかに危機感を抱いた。
「始まったわね。速攻で正面突破を狙うつもりだわ」
その時、カークさんが問いかけてきた。
「指揮官、指示を出してくれ。戦闘の陣容を構築しよう」
「無論です」
そう答えながら私は傍らの通信師の少女へと問いかけた。
「あなた、無差別発信念話は?」
「可能です」
「では今から私が話す言葉を集まっている人々すべてに発信してください」
「わかりましたやってみます」
通信師の念話にはいくつかの種類があるのは先にも告げた。今回、彼女にお願いしたのはある一定の範囲内の全ての人々へと一斉発信する物だ。
通常の通信と異なり念話の精度よりも力の強さの方が重要視される。そのため得意不得意が分かれるのだが彼女の場合は大丈夫そうだ。
背後へ振り向き周囲を見回す。そこには三つの勢力に分かれた数百人以上の人々が集まり私の方へと不安げな視線を向けていた。
次に何をなすべきか? どう行動すればいいのか?
その明確な答えを私に求めているのだ。
ならば応えよう。指揮官の証を胸にいただいている者の責務として。
通信師の少女へと視線で合図を送り私は声を発した。
「全軍傾注!」
その言葉と同時に――
――ズワッ!――
――そんな風の音が聞こえるような勢いで全ての視線が一点に集まってくる。
通信師の彼女が私の声を間違いなくすべての人に送ってくれている。私は自分の指揮官としての思惑を送り始めた。
「決戦の時は来たり! これより戦闘陣容と部隊配置を確定する! 聞き漏らしは命を落とすので確実に記憶し理解しなさい!」
まずは注意喚起だ。
「続いて陣容ですが、全体を五つに分けます!」
私は言葉を続ける。
「中翼・右翼・左翼の三つに分けます。さらに右翼の前衛後衛、左翼の前衛後衛、これで五部隊構成となります。次に各部隊への配置要員と部隊長を指名します」
全体が五つに分かれ、そのそれぞれに部隊長が決められ部隊を率いることとなる。
「まず右翼前衛と左翼前衛は比較的足の速い白兵戦闘戦力を配置します! 戦闘力があり機動戦闘に対応できるものはこちらに入ってください」
この言葉に頷いたのは比較的職業傭兵たちが多い。元々戦場の最前線で敵を求めて駆け回っている連中なのだ。敵に対して有効な打撃を与えてくれるだろう。続いて部隊長を指名する。
「右翼前衛・部隊長〝ガルゴアズ・ダンロック2級〟」
私がその名を告げれば力強い声が返ってくる。
「はっ!」
私と視線が合い頷く姿には自らの役目の意味を理解している男の姿があった。そこには死地を求める弱者の姿はなかった。
「続いて左翼前衛・部隊長〝ダルカーク・ゲーセット2級〟」
こちらは当初はダルムさんだったがこれだけの大人数が集まればより機動戦闘が期待できる人物へと替えるのが妥当だろう。
「了解!」
彼からも力に溢れた言葉が帰ってきた。
部隊長が指定されたことで彼らのところへと適性のある者たちが自然に集まっていく。その数も左右で均等のようだ。
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