唐突に飛び出した黒幕の名前。私はおどろきつつ彼を問いつめる。
「どういう事ですか?」
「ガロウズと別れたあとに気配を消してもどってみたんだ――イマイチ信用できなかったからな。やつは聞こえていると気づかずになにやら話していた。壁越しに聞いた感じでは通信をしていたようだったな」
その話を全面的に信用するとしたら、ガロウズと言う男は意外と脇があまい人物なのかもしれない。
だがそこでバロンさんが思い出したかのように言い始めた。
「モルカッツ・ユフ・アルガルド――たしかそんな名前の男が中央軍本部の地方査察審議部に所属していたはずです」
「こころあたりが?」
「えぇ――正規軍にいた頃、最前線での任務に忙殺されていたのですが、その無理な指示を出す元凶の人物として噂の俎上に載っていました。別件で一度、会ったことがあります。頭はキレるが、ろくな人物ではありません。とにかく強欲で抜け目がない」
ダルムさんも言う。
「名前からしてアルガルド家の家系なのは間違いないな。そいつが黒幕か?」
「軍内部の人間ではそうかもな」とカークさん。
「可能性としてですが領地争いのような案件が根深く絡んでいるはずです」とゴアズさん。
そこに私は言った。
「中央本部内の実行役はその辺りでしょう。ですがさらにその上が居てもおかしくありませんね」
問題の根は相当に深そうだ。
「十分に警戒する必要がありますね。それと、もう一つ〝切り札〟をこちらも用意しなければなりません」
「切り札って、いまさら何があるんだ?」
疑問の声をカークさんが投げかけてきた。これは釈明が必要だろう。
「決定打を決めるには必要な情報のピースが足りませんが、可能な限り先手を用意しておいて損はありません。ある所につなぎを取ろうと思います」
そう言いつつ私はプロアにそっと視線を送った。案の定、苦々しい表情を彼は浮かべていた。
そして私は言った。
「オブリスさん、今後も私達と行動をともにしてください。そして表向き、これまで通り正規軍の中尉として振る舞ってください」
「はい、承知しました」
オブリスさんは狼狽える事なく素直に承知してくれた。
「とはいえボロがでるのを避けるためにも指揮は私に付託して後見人の立場に専念している――としてください」
「分かりました」
「では事件集結までゲオルグとして振る舞ってください」
「はい」
彼は立ち上がるとこちらの申し出を素直に受け入れてくれた。そんな彼にドルスがちょっと嫌味を言う。
「やけに素直に言うこと聞くんだな」
「妻の命がかかってます。ここで逃げ出しても何の得にもなりませんから」
「そりゃそうだ」
ゲオルグ=オブリスさんの言葉にドルスさんが頷いていた。そして彼は私に言った。
「このおっさんは俺に預けてくれ。監視がてら身を守ってやる。それで良いな? ルスト隊長」
「えぇ、結構です。オブリスさん、――いえゲオルグさんも指示に従ってください」
「わかりました」
そしてもう一人、言い含める人がいる。
「テラメノ通信師、あなたも私達と行動をともにしてくださいますね?」
私がそう告げれば彼女は両腕を組んでゲオルグを睨みつけていたが、盛大にため息を付いて首を縦に振ってくれていた。
「仕方ないわね、偽の命令で連れてこられたのは私も同じだし、事件を解決させて身の証をたてないと刑場送りか監獄行きになりかねないんでしょ?」
「えぇ、残念ながら」
「解ったわ。あなたの指揮権に服属するわ」
「承知していただきありがとうございます」
不承不承ながら彼女も行動をともにしてくれるのが決まった。だがその時だ。
――パアン!――
盛大に何かを叩く音が響いた。テラメノさんがゲオルグさんの頬を思いっきり叩いたのだ。
「これくらいのことはいいでしょ? 巻き込まれたのは事実なんだから」
「見なかったことにします」
私とテラメノさんが笑い合う。ゲオルグさんが鼻血を出して悶絶している。他の人たちも苦笑いしていた。
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