学内の廊下を3人連れ立って歩いている。そんなときアルトムに声がかけられた。
「おはようございます。失礼いたします、ハリアー先生」
凛とした張りのある声はどことなく気の強さを感じさせる。声のする方に視線を向ければそこに佇んでいたのは3人の若い女性たちだ。
一人はズボン姿にブラウス・シャツ、その上に薄物の夏用のケープマントをかけている。色が白では無いのは彼女が学生では無いことを表している。その顔にはシンプルな真鍮フレームの眼鏡がかけられていた。白い肌に黒味がかった金髪、フェンデリオルではない特徴だった。
もう一人がコトリエのような膝下丈のワンピースドレスで襟の高いアフタヌーン仕様。色は涼し気なシルバーグレーで光沢がある。腰にはサッシュベルトではなく両サイドと後を覆うように青いシースルーオーバースカートを重ねていた。肩にかけているケープマントは白磁に金糸だった。
「クドウ君、レミチカ君、それにノツカサ君も」
それは3人ともアルトムの知っている人物だ。3人が3人とも素性は異なるのだが。
「レミチカ君はずいぶん早いね。君の選択講義は午後からであろう? それにクドウ君はいつこちらへ?」
「彼女に学内を案内しようと思いまして、そこで教授にお会いしていただこうと」
アルトムとレミチカの言葉にクドウが挨拶をする。
「お久しぶりですアルトム教授。今、レミチカさんのご実家にご厄介になっています」
クドウの言葉にレミチカが言う。
「クドウさんはフィールドワークの一環でフェンデリオルにいらっしゃってるんです。それで滞在の支援を私の所で」
「なるほど、そう言うことだったのか。よく来たね。長旅だったのだろう?」
アルトムの問にクドウはハキハキと答える。
「はい、多少は――もっとも今は新しい街道ルートが造られたのでそれほど長くはありませんが」
その語り口から意思の強さと理知的な面が垣間見える。そんな二人にコトリエが挨拶をする。
「おはようございます。レミチカさん、それと、はじめましてクドウ様」
そのあとにチヲが続く。
「おはようございます。皆様」
二人の挨拶にレミチカが笑顔で答える。そしてクドウが自己紹介をする。
「はじめまして。トモ・クドウと申します。ヘルンハイトの国立科学アカデミーで主任研究員をしております」
自らの素性を明かした上で右手を差し出し握手を求める。コトリエもチヲも屈託なく応じていた。
その彼らを見つめながらアルトムが告げた。
「立ち話をするより、私の執務室へ行こう。茶でも飲みながら語ろうではないか」
「はい、先生」
「ありがとうございます」
生徒たちからは好意的な答えが帰ってきた。そしてアルトムは一人離れていたノツカサにも声をかけた。
「君も来たまえ。気兼ねすることはない」
「ありがとうございます」
そう答えつつレミチカに視線で許しを求めている。レミチカは答えた。
「いらっしゃい、ロロ」
「はい、お嬢様」
レミチカより少し背丈の小柄なノツカサは紺色のメイド服を着ていた。外出用にエプロンではなく前掛け付きのオーバースカートをつけている。髪には白いシニヨンキャップをかぶせていた。彼女――〝ノツカサ・ロロ〟はレミチカの専属の侍女だ。主人を越える装いは失礼だが、主人に恥をかかせないように装いをするのもまた従者として必須の礼儀だ。
「行こうか」
そして6人連れ立って、アルトム・ハリアーの執務室へと向かったのである。
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