「続いて左翼後衛、弓技能を持つ市民義勇兵で構成します。日頃の鍛錬の成果を発揮することを期待します!」
そもそもが市民義勇兵と言うのは弓技能者であることが多いのだ。近接戦闘は普段から鍛錬に鍛錬を重ねている正規軍人や職業傭兵が担うことが多い。
自然に遠距離攻撃の主体である弓技能者は市民義勇兵が生活の合間に修練して弓の技を担うこととなる。
「左翼後衛部隊長〝バルバロン・カルクロッサ2級〟」
私が彼の名を呼べば、彼はその身につけていたキャソックを脱ぎ捨てながら答えた。
「拝命、受領しました!」
上着の下からは、フェンデリオル正規軍最高の弓取りとまで称された男の鍛え上げられた太い双腕が現れた。
そしてその手に握られているのはメルト村で700年のはるか昔から代々継承され続けてきた弓形精術武具〝ベンヌの双角〟が握られていた。
彼を中心としてメルト村の人々が集まって行く。彼らもまた大切な戦力なのだ。
そして次は右翼の後衛だ。
「右翼後衛は足に自信があり一撃離脱の高速機動戦闘が得意な者に集まっていただきます」
強力な武装を持ち、鍛え上げられた肉体で接近戦を行うのが白兵戦闘部隊だとするならば、とにかく動きの速さで戦場を撹乱し、時には敵戦力の急所に致命的ダメージを与えて戦局の流れを変えてしまうことすらあるのが高速機動部隊の存在意義だ。
ここは職業傭兵の中でも一癖も二癖もある曲者達が集まることとなるはずだ。目線で追えばマイストとバトマイの二人もここに来ている。もともと軽装な彼らだが、脚には自信があるのだろう。その彼らを指揮するものを指名する。
「右翼後衛部隊長〝ルドルス・ノートン3級〟」
私が彼の名を呼べばこれまでの日々の中で信頼を築き上げてきたあの人が頼もしげに立ち上がっていた。
「おう!」
問題の多い人だがそれ以上に頼もしいと言える人だった。
ところがだ。
「指揮官!」
中央部隊所属の通信師でもうひとりの少女が告げた。
「どうしました?」
「『3級傭兵が隊長役をやっていいのか?』と疑問の声が出ているそうでーす!」
予想された声だった。誰もが疑問を持つに違いなかったからだ。指摘されなければそのまま流そうと思っていたのだがものの見事に躓いたことになる。だからーー!
「ルドルス3級には私の指揮権の一部を預託する形を取ります! ですから問題ありません!」
私はキレ気味にまくしたてる。そして思わずこう続けてしまった。
「だからさっさと2級取っとけって言ったのよ!」
その言葉にあちこちから笑い声が上がった。
「うるせえ!」
半ば自棄の悪態が帰ってきたが心の広い私は聞かなかったことにした。
「そして中央ですが装備の充実した正規軍人と近接戦闘力と防御力に期待できる職業傭兵で構成します! なお私は中央部隊後方に陣を取ります!」
そしてさらにすぐそばに控えている二人に個別に伝達する。
「ギダルム準1級は中央部隊で、ランパック3級は右翼後衛に配置します」
私の指示にまず答えるのはダルムさん。
「よし、引き受けた」
老齢の彼に白兵戦闘が務まるのか? という疑問もあるだろうが彼とて歴戦の猛者だ。彼ならばその戦鎚で見事な武功をあげてくれるはずなのだから。
その次に返答をしてくれるのはパックさん。
「拝命、承りました」
彼ならば敵兵に対してあの戦象を倒すほどの強さは恐怖として伝わっているはずだ。ならばその恐怖をフルに活かすためには遊撃手として変幻自在に配置し、位置を固定しないほうが得策だろう。
「そして最後に、ワルアイユ領現暫定領主アルセラ・ミラ・ワルアイユ嬢」
「はい!」
最後に肝心な人物が残った。彼女にも重要な役目が残されていた。
「あなたには私と一緒に行動していただきます」
「わかりました」
その明るい返事は自分自身が何を求められているのか、無意識のうちにも察しているかのようだった。
この一連の日々で一番成長した人物と言えば、それは間違いなく彼女だ。
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