「フェンデリオル正規軍西方司令部所属の行動部隊です。総員140名、国境線防衛臨時部隊に参集いたします」
「ご協力ありがとうございます! 指揮官のエルスト・ターナー2級傭兵です」
謝辞とともに私が名乗れば彼らもまた名乗り出てくる。
「西方司令部所属将校、ワイゼム・カッツ・ベルクハイド大佐です」
「同じく、西方司令部即応憲兵部隊中隊長、エルセイ・クワル少佐であります」
「そちらに正規軍中央司令部発行の指揮官徽章の存在を確認しました。そちらを国境線防衛部隊の指揮官として認識し、その権限下に入らせていただきます」
ベルクハイド――、その名を聞いてあることに気づく。
「失礼、もしかして上級侯族のベルクハイド家の方ですか?」
私のその不躾な質問にも彼は静かに微笑んだまま答えてくれた。
「いかにも。上級候族が一つ、ベルクハイド家の者だが?」
彼がそこまで答えたとき、彼の方から何かに気付いたらしい。
「おっと――、なるほどそういう事か」
周囲に聞こえないように一人納得する。私が何者であるかを察してくれたようだ。ワイゼム大佐の顔には何かを納得しているような静かな笑みが浮かんでいたが、その態度や言動に変化はない。
「それでは本作戦の指揮については、作戦の概要など後ほど聞かせていただこう。こちらから必要なことがあればなんなりと具申してくれたまえ」
「ありがとうございます。では後ほど全体の再編成を行いますのでご指導ご鞭撻よろしくお願いいたします」
私がそう告げればワイゼム大佐以下、すべての正規軍人の士官たちが私に向けて敬礼で返す。私もかつての軍学校時代を思い出しながら敬礼で返していた。
さて次にやることといえば、様々な立場の者たちが、統率を欠いた状態で寄り集まっているのを、適切に整理し直して、効率的な戦闘集団として再編成をすることだ。
市民義勇兵、職業傭兵、そして、正規軍人――
異なる立場の者たちをどう連携させていくのかは、フェンデリオルの軍隊を率いる者には極めて重要な役目だ。
だがその前に、全体の行動とは別に独自に動く者もいた。プロアさんだ。
「ルストたい――おっと、ルスト指揮官」
空気を読んだのか、彼が私の肩書を言いなおしながら問いかけてくる。
「俺は向こうの指揮官だったガロウズって男を追う」
今回の重要人物だ。先行して捕らえられるならそれに越したことはない。
「お願いします!」
それと傍らにいたエルセイ少佐が語りかけてくる。
「失礼、ガロウズ少佐を追うのですか?」
その言葉には同じ正規軍人を追走しようとすることへの疑問が滲み出ていた。その疑念に対しては私が弁明した。
「ガロウズ・ガルゲン少佐には、虚偽証拠による不正な作戦指揮行動の疑いがあります。今回、西方辺境領のワルアイユがミスリル鉱石の不正横流しの疑いがかけられているのはご存知ですね?」
「もちろんです。我々は本来、それの追求を目的としてワルアイユ領への強制執行のために集められたのですから」
私はエルセイ少佐とワイゼム大佐とに明確に告げた。
「その不正横流し疑惑は完全な濡れ衣です。証拠とされている花押付きの指示文書もワルアイユに潜り込んでいた内通者により偽造されたものです。それは現在、私の手元にて保全されています」
普通ならこんな意見、何の妄想だと一蹴されてしまうだろう。だが明確な証拠があると言う確固たる言葉を無視するほど、目の前の二人の正規軍人は愚かではなかった。
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