そしてプロアは走り出す。
「精術駆動! 空戦舞・天馬!」
両足の精術武具――アキレスの羽が微かに燐光を放ったかと思うとその秘められた力を解き放つ。飛天走の素早さと空戦舞の精密機動制御、それが同時に発動をする。眼前に迫ったインドラの牙の雷撃を空中で前方回転しながらやすやすと躱す。
と、同時に自らの腰の後ろに右手を回すと、着衣の下に隠し持っていたあるものを引き出す。
――ジャラッ――
まるで鉄鎖を引きずるような音がする。
――ジャララララ――
プロアが前転を終えるのと同時に、その腰の後ろから引き出したのはまさに〝鉄の蛇〟総金属製のムチ状武器だ。
「な、なんだ?」
「あれは鎖牙剣!?」
アシュゲルたちが驚きを口にするのを尻目に、プロアは今度は空中でコマのように体を錐揉みさせ始める。
――ジャァァァァッ!――
さらに勢いを増しながら鎖牙剣はその全体像を現す。ムチというより蛇、鉄蛇の如きその本体は鋭利な刃物が一直線に繋げられた物であり、攻撃対象となる物体にぶち当たれば斬りつけると言うよりえぐり取るような効果が期待できるはずだ。当然、敵にも味方にも双方にとって危険な代物だ。
プロアによって引き抜かれたそれは、勢いを保ったまま振り回され、空中を漂うように疾駆している。プロアがそれを振り回しながらアシュゲルたちに告げた。
「俺は裏社会で散々いろいろな精術武具を見てきた。そして、精術武具同士の戦いではある〝要素〟が重要な意味を持つ」
そして、空中を蹴りながらプロアは突進しつつ告げる。
「それは――〝手の内を知られていない〟と言うことだ!」
空を舞うように、滑るように、移動してくるプロアにアシュゲルたちは戸惑いを見せる。だが怯んでは居ない。
互いに目配せし合うとそれぞれ異なる方向へと移動し始めた。
インドラの牙の雷撃は、異なる2点間をつなぐように稲光がほとばしる。アシュゲルとハイラット、異なる2人がそれぞれに計算し合いながら攻撃対象を互いの間の位置へと捕らえることがかなめとなる。
「精術駆動!」
「電光鞭!」
2人が同時にインドラの牙を振れば、その動きに合わせて直線状にほとばしっていた稲光がしなってムチのように動き始める。そしてそれはプロアを的確に捉えていく。
「言ったろ――」
だがプロアは叫ぶ。
「手の内知ってるってな!」
プロアは空を蹴り、あえて雷撃へと突進していった。そして、自らの周囲を旋回させるように振り回していた鎖牙剣を、雷撃の閃光へと叩きつけるように振り抜いたのだ。
――ブオォッ!――
「なに?」
アシュゲルが驚きの声を上げる。ハイラットは戸惑いつつも声を上げた。
「怯むな! 金属武器で雷精は防げない!」
だが――
――バァアアンッ!――
雷撃の閃光は飛び散ってしまう。まるで鎖牙剣の刀身により弾かれるかのように。それは電気を通さない絶縁体であるかのようだ。
そのまま鎖牙剣をムチのように振り抜き、プロアからみて右手に位置していたハイラットを襲った。
「くそっ」
とっさにインドラの牙を構えて組み討ちしようとするが、のこぎりのように細かな刃が連なった構造の鎖牙剣を凌ぐことは不可能に近い。金属鋸で削られるかのように鎖牙剣の連刃がインドラの牙をむしり取ろうとする。
「無駄だ」
――キインッ――
涼しい音をたててハイラットが手にしていたインドラの牙は弾き飛ばされる。と同時に鎖牙剣はハイラット自身にも襲いかかってその右肩を深くえぐった。
「ぎゃあっ!」
血がほとばしりその傷の深さを物語る。だがプロアは言う。
「ただの出血だ。死にゃしねえ」
そう吐き捨てあっさり見限った。
2振りのインドラの牙をつなぐようにして輝いていた雷光は途絶えた。まるで1本では意味を成さないと言わんばかりに。
――カッ――
アキレスの羽の効力を効かせながらゆっくりと床へと舞い降りる。その視線は残るアシュゲルへと向いている。
「おい」
重く響く声でプロアは語る。右腕で鎖牙剣を振り回し、その刀身は空を切る。
――ヒュン、ヒュン、ヒュン――
その音を威嚇としながらプロアは迫る。
「まだやるか? やるなら死ぬまで相手してやるぞ。ただし――」
プロアの視線がすでに重傷を負っていたハイラットに投げかけられる。
「相方程度じゃすまねえぞ」
そしてひときわ強く鎖牙剣を振るう。
――ブオッ!!――
「それでいいんだな?」
「―――」
無言で冷や汗を浮かべながら身構えていたアシュゲルだったが、間をおいて諦めたようにインドラの牙を手から離す。
――ガラン――
涼しい音をたてて残る1つのインドラの牙も床へと転げ落ちた。
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