旋風のルスト 〜逆境少女の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方国境戦記〜

美風慶伍
美風慶伍

ドルス・バロン残留

公開日時: 2021年8月1日(日) 21:30
文字数:1,636

 敵の気配を慎重に警戒しながら馬を進める。狙撃の可能性をなおも考慮していたが、バロンさんの放った火弾の威力は相当なものだったのだろう。敵からの反撃は見られなかった。

 石橋を渡りきり、馬車溜まりの広場へとたどり着く。そして、固く閉じられた城門へと視線を向けながら私は叫んだ。

 

「フェンデリオル正規軍憲兵部隊からの依頼により参った査察部隊である! 本城領主に目通り願いたい!」


 山奥の谷あいの石造りの砦に私の声は響いた。残響がこだまする中、相手の出方を伺うが帰ってくる声は無かった。

 

「どうする?」


 傍らからダルムさんが問いかけてくるが私は即答する。

 

「こじ開けましょう」


 迷いのない言葉に皆が頷いている。私は告げる。

 

「全員、降馬! 並びに戦闘準備!」


 私の宣言の後に、全員が一斉に武器を抜いた。

 牙剣を抜いたのは、ドルス、

 戦鎚を構えるのは、ダルム老、

 籠手型精術武具が、カーク、

 素手のままが、パック、プロア、

 弓形精術武具が、バロン、

 そして、私は腰に下げていた戦杖を抜く。

 

「最終確認! 本作戦は、ラインラント砦に突入し、アルガルド領領主デルカッツ・カフ・アルガルドの身柄を拘束、ならびに不当に武装しているアルガルドの私兵集団の撃滅する事を目的とする! 相応の抵抗が予想されるので各自対応されたし!」


 私がそう叫べば、皆が応じる。

 

「おう!」

「了解」

「心得ました」

「了解です」

「了解」


 そして最後を締めるようにダルム老が言う。

 

「それじゃぁ」


 勢いよく進み出て、巨大な戦鎚を振りかぶる。私もそれに合わせて進み出て戦杖を振りかぶった。

 

「おっぱじめるとするか!」

「精術駆動! 重打撃!」


 ダルムさんの戦鎚と、私の戦杖、2つの武器の打撃で、木と鋼とで作られた城門を打ち据えた。

 

――ドオンッ!――


 一撃目、木板が砕ける。

 

――ドオオオンッ!――


 二撃目、鋼の枠がひしゃげる。

 

――ドカァンッ!――

 

 そして、三撃目、城門の裏側にかけられていたかんぬきが弾けて、その分厚い城門は破壊され開放される。

 開け放ったその城門に向けて私は叫んだ。

 

「突入!!」


 ここにいよいよ、最終決戦の幕が切って落とされたのだ。

 

 

 †     †     †

 

 

 アルガルド領領主、デルカッツの居城であるラインラントは縦に細長い形をしている。

 石の橋を渡ると馬車を止める広場があり、その向こうに二階建ての城門館がある。

 建物は急な斜面を切り開く形で作られており、建物の土台となる地下階がある。

 その上に広場が設けられ、その奥に地上三階建ての本館が建てられていた。


 地上の広場は3つに分かれている。

 城門館をくぐると広いエントランス広場があり、

 その向こうに馬車の停車場がある。

 更にその奥に庭園を兼ねた中央広場があり、さらにその奥に本館とそれに連なる建物群が広がっていた。

 

「周囲警戒を」


 私はそう告げながら周りを見回す。広場の周囲には本館と城門館をつなぐように屋根付き廊下がつながっており敷地を囲んでいた。だがその広場には誰も居ない。

 足早に、なおかつ慎重に周囲を警戒しながら、私たちは歩みをすすめる。

 最初のエントランス広場の中ほどに来たときだ。

 

「伏せろ!」


 ドルスが叫んだ。彼らしくない大声で。

 

「走れ!」


 さらに続くその声に私たちは一斉に走り出す。

 私はドルスが銃や砲火に詳しいことを思い出すと、それを前提に皆に指示した。

 

「敵射線を警戒し散開して、敵本館入り口へ吶喊とっかん!」


 私の指示に皆が一斉に動く。ただし、ある2人はその場へと残る。


「こっちは任せろ!」


 快活で威勢のいい声がドルスさん。

 

「ご武運を!」


 力強くも礼儀正しいのはバロンさん。

 爆発物と銃砲類を得意とするドルスと、弓狙撃手のバロン、彼らなら屋内よりこう言った開けた場所のほうがより有利だろう。

 私は振り向きつつ彼らへと言葉を送った。

 

「お願いします!」


 こうしてまた二名残留した、残りは私を含めて五名となった。

 戦力の分散を強いる――、それが敵の狙いなのだろう。だが私は信じていた。

 仲間たちのその実力を。彼らなら一騎当千の力を持っていると。彼らはフェンデリオルの誇りある傭兵なのだから。


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