誰ともなく声が漏れてくる。
「嘘だろう?」
「モーデンハイム当主の個人財産を?」
「あの噂は本当だったんだ」
「ミルゼルドを怒らせたら命はないって」
会議参加者たちのざわめきが響く。
そして、勝ち誇った表情でレミチカは言い放った。
「さて、これらを踏まえた上でお聞きいたしますわ。すかんぴんの無一文になった状態で今までのような謀略ができるのであれば、どうぞおやりになってくださいな。今のあなたでは人一人殺すことすらできないでしょうけど」
そして冷笑を浮かべると鼻息を飛ばした。
「ふっ」
それに対するデライガの反撃は無い。椅子に座り込んだままで蒼白の表情でぐったりとしている。レミチカはデライガに言い放った。
「私の親友を散々苦しめたその対価です。しかと頂戴いたしました」
そしてドレスの裾をなびかせながら身を翻す。
――バサッ――
エスパドリーユのヒールを鳴らしながらレミチカは歩き出す。
「行くわよ。ロロ」
「はいお嬢様」
ロロは持参した書類を丁寧に回収すると、それを抱えて会議参加者たちへ向けて一礼する。そして主人であるレミチカの後を追う。
途中、神殿の入り口間際で佇んでいたトモに語りかける。
「参りましょうか」
「はい」
そして神殿入り口で立ち止まり振り返るとユーダイムに対して告げる。
「それではユーダイムのおじ様、後のことはよろしくお願いいたします」
ユーダイムはレミチカの鮮やかなまでの振る舞いに感心しつつも力強く告げた。
「後始末は確実に行っておく」
「よろしくですわ」
「ああ、お父上にもよしなにな」
「はいです。〝ご当主様〟」
レミチカに続いてトモもロロも一礼をしてその場から去っていった。
後に残された会議参加者たちの口から言葉が漏れた。
「あれで17だと?」
「何とも恐ろしい」
「絶対に敵に回してはなりませんな」
「さすがエライア様のライバルと称されただけありますな」
レミチカへの評価が流れる中で、それをたしなめるかのようにユーダイムの言葉が響いた。
「さて諸君、ここで裁決を取りたい。現当主デライガ・ヴァン・モーデンハイムの当主としての地位を剥奪しその身柄を更迭。さらに廃嫡処分とすることに賛同するものはご起立願いたい!」
ユーダイムの宣言を耳にして会議参加者たちが一斉に立ち上がった。起立しないものは一人もいない。
その光景を目の当たりにした進行役が結論を下した。
「賛成者多数。よってこの裁決は承認されたものとみなす」
その瞬間、デライガ・ヴァン・モーデンハイムは全てを失ったのだ。
「ヒッ」
奇妙な声が響いた。
「ヒヒッ」
明らかな奇声、そのぬしはデライガだった。
「ヒヒヒ! ヒャハハハハ!! 俺が! 俺が当主だ! 誰にも、誰にも渡さないぞ! 俺が! 俺が!」
精神が破綻しかかっていた。追い詰められ切羽詰まったデライガは思い余ってこう叫んだのだ。
「俺を引きずり下ろすというのなら! お前たちに教えてやる! モーデンハイムの血脈は途絶える! あのエライアに家督を継承するというのなら、モーデンハイムの生えある血筋は途絶える!」
突然の叫びに誰もが戸惑いを隠さなかった。そして、彼の口から飛び出た言葉に皆が驚きと怒りをあらわにすることになる。
「俺はユーダイムの実子ではない! 連れ子だ!」
これはどういうことかと言うと、ユーダイムとデライガのあいだに直接の血の繋がりがなければ、エライアの母が外部から嫁いできた身である以上、その娘であるエライアにはモーデンハイムの血脈は一切繋がっていないと言う事になるのだ。
それはまさに――
――残酷極まりない事実だったのだ――
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