旋風のルスト 〜逆境少女の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方国境戦記〜

美風慶伍
美風慶伍

終戦処理

公開日時: 2021年7月21日(水) 21:10
文字数:1,880

■フェンデリオル側、中翼本隊・指揮官エルスト・ターナー――



 戦いが終結し戦場の各所で戦いに身を投じていた人々が少しずつ戻ってくる。

 そしてそれぞれが、背負っていた役目のもとに、戦いの後の新たな役目へと動いていく。

 そう、ここは節目だ。

 物事と行動の――


 ワイゼム大佐とエルセイ少佐とが、今後の事について話し合っている。

 彼らに帯同していた通信師技能を有した正規軍兵を交えながら本部と連絡を行っているようだった。

 大佐が言う。


「それでは西方本部へと増援を打伝しろ」

「はっ!」

「増援依頼理由は〝捕虜の管理〟と〝国境線警戒〟、トルネデアスとの交渉も必要となる。海外交渉折衝の経験者を必ず帯同させるように伝えろ」

「了解であります」


 その通信師は2級以上の資格を持っていたが、先ほど戦いの際には戦闘に専念していたため部隊間の通信には参加していない。

 その通信師が本部とのやりとりを始めたのを横目で見ながら、大佐は少佐へと告げる。


「少佐は負傷者の回収を頼む」


 少佐は答えた。


「すでに開始しております。医療兵を中心として応急処置と移動手段の確保を進めております」

「負傷者の中に市民義勇兵は居たか?」

「おりますが、すべて軽症者です。メルト村の人々が自主的に相互に治療を行っております。なお先方の村長より負傷者介護への協力が申し込まれております」


 その言葉に大佐は感謝の言葉を口にした。


「それはありがたい、適切な報酬の準備を進めながら協力してもらいたまえ」

「了解です」


 大きな戦いが終わった後には最大の問題となるのが負傷者の回収と彼らの移動手段の確保だった。だがそれは正規軍人や職業傭兵には手慣れた作業だ。相互に協力し合いながら的確に対処を進めていくことだろう。


 メルゼム村長の元へと市民義勇兵たちが戻りつつある。村長は次の行動を的確に指示していた。


「良いか、正規軍の人たちを煩わせることなく我々は我々だけで負傷者の治療を相互に進めろ。その上で正規軍や職業傭兵の人たちに負傷者があればその治療を進めろ」

「わかりました」

「了解です」


 青年団の人々や女性市民義勇兵が中心となり速やかに行動が開始される。

 そんな村長の所へ、アルセラがやってくる。


「村長!」

「アルセラ様」

「お勤めご苦労様です。首尾はどうですか?」


 その問いに村長は答えた。


「問題ありません。多少の軽症者は出ましたがメルト村の者たちのみであればすでに応急処置は完了しております」

「そうですかそれは良かった。ではこれから後は我々は村へと帰参しましょう。その際に正規軍人の方たちと、職業傭兵の方たちを受け入れ、事後処理を的確に進めてください」

「かしこまりました。直ちに」


 彼らがそんなやり取りを進めているところに私が現れた。


「メルゼム村長!」

「これは、ルスト指揮官」

「いえ、戦闘はすでに集結しましたから指揮官としての行動は終了です」


 私は意識的に落ち着いた声で告げた。


「後は今回の事件を後ろで糸を引いていた黒幕を追い詰め捉えるだけです」


 私のその言葉に村長とアルセラが言った。


「おお、ではついに」

「アルガルドの方と向かわれるのですね?」


 私は頷いて答え返した。


「はい。アルガルドの領主であるデルカッツ・カフ・アルガルドを捕縛します」


 そこに私と行動を共にしてくれていた初期の査察部隊の仲間たちが集まってくる。


「いよいよか」


 そう問いかけてくるのはダルムさん。


「敵の本丸に殴り込みってわけだ」


 荒っぽくも力強く言うのはカークさん。


「腕が鳴ります」


 戦う意欲を隠そうともせず次なる戦いへと意識を向けるのはパックさん。


「やっぱりそうなるよな。少しは休ませてもらいたいもんだぜ」


 相も変わらずボヤキが入るのはドルスさん。


「そういう訳には行きませんでしょう」


 優しい声でたしなめるのはゴアズさん。


「無論です。黒幕に逃亡の余地を与えてはなりません」


 当然の指摘をするのはバロンさんだ。

 私は彼らに対して答えた。


「みんな!」


 私がそう尋ねれば皆は頷いていた。彼らを代表するかのようにドルスさんが答えてくれる。


「お疲れさん。見事な采配だったな」


 そこにカークさんが告げる。


「これだけの大規模な戦闘にかかわらず、負傷者・未帰還者、ともに少ない数に抑えられているのはルスト隊長の指示と判断の的確さゆえだな」


 その言葉に同意したのはゴアズさんだった。


「私もそう思います。あれだけ複雑な部隊運用を進めた上で損耗をこれだけ少なく抑えられたのは見事というほかはありません」


 賞賛の声が次々に出てくる中で私は謙遜しながら会話を次へと進めた。


「ありがとうございます。それでこれからの事なのですが」


 私がそう声を上げた時だ。

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