場が一瞬にして沈黙する。静寂に包まれた後にざわめきが広がる。
「馬鹿な? 急死じゃなかったのか?」
「ご病気と聞いているぞ!」
動揺するのは最もだ。だが――
「静粛に! 話にはまだ続きがあります!」
――私は声高に力強く言い切った。そしてここからが重要なのだ。皆に賛同してもらわねばならない問題があるのだ。
「緊急事態による略式ではありますがバルセラ候の息女である〝アルセラ・ミラ・ワルアイユ嬢〟を新領主として擁立することをここに宣言いたします」
「略式?」
私の宣言に対して疑問の声が漏れる。これは説明が必要だろう。
「領主の急逝などにより早急に次の領主を擁立する必要がある際に、領主の直属の親族であれば後日州政府に申告する形で略式でも良いとされています。これは侯族に関する規範法典に明記されている条項ですので問題ありません」
そして、略式継承を確実にするためにやっておかねばならないことがある。
「ただしそのためには、略式継承を承認する賛同者が6人以上必要です。皆様にはこれに同意していただきたいのです。これに異論はおありですか?」
法による手続きは書面による記録と他者による同意承認とで成り立っている。メルト村の人達による賛同は絶対に必須なのだ。私の説明に対してメルゼム村長が声を発した。
「異論はありません。この危機を乗り切るためにも今選びうる最善の策だと思います」
「ありがとうございます。では同意書に署名をお願いいたします」
私の宣言と同時に執事のオルデアさんが領主承認のための同意書の用紙を運んできてくれた。それに連名で明記し、新領主の名をアルセラ自身に書いてもらえば完了だ。それをオルデアさんに託し領主擁立についてはひとまず解決する。
ここからはこの村とワルアイユを守っていくために必要な議論へと移ることになる。
そのためには説明しておかねばならないことがあった。私は意を決して告白した。
「皆様と行動をともにしていくにあたって説明しておかねばならないことがあります」
アルセラが問いかけてくる。
「それは一体?」
私はアルセラの顔を一瞥しながら皆へと毅然として言った。
「私達が派遣されてきたその理由です」
「え?」
驚きの声を漏らしたのはアルセラ。それを意識しつつ私は続けた。
「私達は、このワルアイユ領においてミスリル鉱脈資源の横流しの疑義があるとの指摘を受けてその調査のために極秘裏に派遣されてきたのです」
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