旋風のルスト 〜逆境少女の傭兵ライフと、無頼英傑たちの西方国境戦記〜

美風慶伍
美風慶伍

焦りと衝撃

公開日時: 2021年5月28日(金) 21:20
文字数:1,094

「それで敵はどうなりましたか?」


 私の問いにカークさんは答える。

 

「乱戦の末に襲撃者たちを追い払った。襲撃者たちも多少は怪我をしているはずだ」

「敵も怪我を?」

「あぁ」


 その答えを耳にした瞬間、視界に入ってきたのはカークさんが常に肌見放さず装着している両手の籠手型の精術武具だ。その名も『雷神の聖拳』雷撃系の効果を持つ打撃武器。それゆえ彼の精術武具で攻撃されると独特の傷や跡が残るのだが――


――独特の傷? 

 

「しまった!」


 私の口から思わず焦りが漏れてしまう。その言葉に驚いてカークさんたち数名が私の方へと視線を向けている。その視線を代表するかのようにカークさんが問いかけてきた。

 

「どういう事だ隊長?」


 その言葉に答える前に私は村長に告げる。

 

「村長、まずは怪我をしている鉱山労働者の方々の受け入れを、その上で村長とアルセラ様にも話があります。ランパック3級は手当をお願いします」

「わかりました」と村長、

「心得ました」とパックさん、


 村長が村の青年を呼び受け入れを指示し、パックさんは足早に治療へと向かっていく。

 そして、アルセラと村長と私を含む部隊員たちとで村役場の中へと入って行く。

 扉を閉め、人目を避けながら私はカークさんたち二人はもとより、パックさんやダルムさんにも視線を投げかけながら静かに告げた。

 

「ミスリル鉱山での敵の狙いは襲撃そのものではありません! 私達、査察部隊を〝襲撃者〟に仕立て上げることです!」


 私が発した言葉に皆が愕然としていた。何を言っているのかと不思議がる表情の部隊員たちに私は明確に告げる。

 

「一つの事実があります。私達に依頼をしてきたゲオルグと言う軍人は〝偽軍人〟です」

「なに?」


 驚きの声を上げたのはカークさん、

 

「やっぱりな」


 そう漏らしたのはダルム老、

 

「腑に落ちないとは思っていたのですが」


そう語るのはゴアズさん。

 そこに私は告げる。

 

「つまるところ、私たちは実在しない虚偽任務で連れてこられてしまったことになります」

「なんてこった」


 カークさんの言葉に私はさらに続けた。


「そもそもが私達は、このワルアイユ領に不正が行われているという疑義を補強するためにつれてこられたんです。ミスリル横流し疑惑に一部の傭兵が加担していると言う疑惑をより印象づけるために!」


 その言葉にアルセラやメルゼム村長も複雑な表情を浮かべていた。

 

「このままではさらなる嫌疑をかけられる恐れがあります」

「物資横流しの嫌疑についても関与しているとするされる恐れですね?」


 ゴアズさんが状況を冷静に判断して落ち着いた声で言ってくれた。だが落ち着いた語り口であるがゆえに、考えられる事態の深刻さを思い知らされずにはいられなかった。


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート