「やぁ、初めまして」
あれは、京奈と行った、とある古い神社の、いわくありげな古井戸を覗き込んだ時のこと。
まるで、ゲームみたいな優しい光に包まれて、気がついたら私は『そこ』にいた。
「最近、神の間で乙女ゲームの世界を再現して死者を転生させる遊びが流行っているようなんだけど」
話しかけてきた中性的で優麗な容姿の若い人の姿の他には、明るいばかりで何も見えない場所。
だけど、鳥の声やせせらぎの音が聞こえてくるから、目を閉じれば森の中にいるように感じる場所。
ええと、お言葉とこの状況から考えて、この方は、神様なのかな?
乙女ゲームの世界の再現なんてして遊ぶほど御力をあり余らせていらっしゃるなら、現実の世界の方を、もうちょっと手入れして頂きたいな。
「ああ、うん」
あいまいにうなずいて、神様が話を続ける。
「私は仮にもこの世界を創造した主神だからね、そこらの神の真似はしたくない。まず、死者の魂を乙女ゲームの世界に転生させようだなんて、魂に対する冒涜だと神様は思うわけ。なんで、そんな下らない世界に転生しなくちゃならないんだと思わない? 私が創造したこの世界の方が素晴らしいよね? すごく、よくできてるでしょ?」
ひきこもりの私にとっては、悩ましい質問よ。
この世界を『いいもの』と認識していたら、ひきこもらないような気もするけど、よくできているかどうかと問われれば、確かに、たくさんの綺麗なものがあって、たくさんの生命が躍動していて、すごく、よくできた世界かもしれない。
人間が穢してしまう前のこの世界は、もっと、ずっと、綺麗だったんだろうなぁ。
「ああ、うん」
また、あいまいにうなずいて、神様が話を続ける。
さすがは神様。
私が何かを思っただけで、たちまち、考えを読まれてしまうみたい。
「だから私は、もとより、乙女ゲームの世界に転生したいと強く望む魂を転生させようと、スタートから一味違うところを見せようと思ってね。あなたの友人の京奈がそれを望んでいたから、とりあえず転生させたんだけど。あなたはどう? 京奈と同じ『星空のロマンス』の世界に転生してみない?」
えぇ~。
私、今の暮らしに不満はないんだけどな~。
ご飯はおいしいし、優しい人達とのご縁を頂いて、何の不自由もしてないんだけどな~。
でも、そのご縁を下さった神様その人のお願いを断るなんて、恩知らずにも程があるよね。
「ああ、うん」
また、あいまいにうなずいて、神様が話を続ける。
「ひきこもりのあなたがいてもいなくても、この世界はあまり変わらないし、それなら、転生してみない? 転生した世界で、あなたが私達を感動させる物語を織り上げてくれたら、あなたの願いを叶えてあげるんだけど」
私達――
他の神様があっと驚くような、さすが主神は違うと感心されるような物語をお望みなのかな。
う~ん、それは私には荷が重そうだけど……。
ひきこもりにそんな、誰もが目を見張るような奇跡を期待されても。
でも、神様はさすが。
『ひきこもりのあなたがいてもいなくても、この世界はあまり変わらない』とか、本人を前に、人間だとなかなか言えないよね。
私は気にしないけど、気にする人は死ぬほど気にしそう。
「願いはいくつ、叶えて頂けるのですか?」
にやっと、神様が唇の端を引き上げた。
「みっつ」
みっつか~。
ご褒美は凄そうだねぇ。
神様に会えたら、是非、お願いしたいと思ってたこと、あるんだよね。
私は静かにうなずいた。
「私が失敗しても、神様が後悔なさらないなら――」
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